湯遊白書〜そこに温泉があるから

ここは天国かい?いや、温泉だよ。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。2017年11月23日、温泉ソムリエ協会認定「温泉ソムリエ」の資格を取得。本ブログの情報は平成29年8月発行の『温泉ソムリエ テキスト』(著者・遠間和広)に基づいています。

温泉の溶存物質量とは?お湯の“栄養成分表”を読めば個性が見える

温泉の溶存物質量とは?お湯の“栄養成分表”を読めば個性が見える

温泉分析書に出てくる「溶存物質量」。名前だけ見ると、理科の授業が始まりそうだが、怖がらなくていい。

これは簡単にいえば、温泉の中にどんな成分が、どれくらい溶けているかを示す数字。
つまり、温泉版の栄養成分表である。

人間でいえば、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル。温泉でいえば、ナトリウム、カルシウム、鉄、炭酸水素イオン、メタけい酸など。

この成分たちがどれだけ入っているかで、温泉のキャラが決まる。

「しょっぱい保温系」なのか。
「ツルツル美肌系」なのか。
「鉄分強めのクセ者」なのか。
「硫黄の香りただよう個性派スター」なのか。

溶存物質量は、温泉の“戦闘力”であり、温泉の性格診断書なのだ。

溶存物質量とは?

溶存物質量の内訳はステータス画面

溶存物質量は、お湯1kgの中に含まれる成分量のこと。温泉分析書では「mg/kg」や「g/kg」で表示されることが多い。

ただし、ここで大事なのは、「多い=偉い」「少ない=ダメ」ではないということ。ラーメンでいえば、こってり豚骨が好きな日もあれば、あっさり塩が沁みる日もある。
温泉も同じだ。見るべきは総量だけではなく、何の成分が多いのか。ここに温泉の本性が出る。

攻撃力:塩化物イオン多め。
防御力:カルシウム多め。
美容力:炭酸水素イオン、メタけい酸多め。
クセの強さ:鉄、硫黄、遊離二酸化炭素多め。

温泉になるための“合格スイッチ”

温泉分析書の見方が10分でわかる!チェックすべき4つのポイントと泉質別ガイド

温泉は、ただ地面から湧いていれば何でも温泉になるわけではない。温泉法では、温度や成分などの条件を満たしたものが「温泉」とされる。成分で見る場合、以下のような基準がある。どれかに該当すると、温泉としての条件を満たす。

物質名 含有量の基準
溶存物質(ガス性のものを除く) 総量1000mg/kg以上
遊離二酸化炭素(遊離炭酸) 250mg/kg以上
リチウムイオン 1mg/kg以上
ストロンチウムイオン 10mg/kg以上
バリウムイオン 5mg/kg以上
総鉄イオン 10mg/kg以上
マンガン(Ⅱ)イオン 10mg/kg以上
水素イオン 1mg/kg以上
臭化物イオン 5mg/kg以上
よう化物イオン 1mg/kg以上
ふっ化物イオン 2mg/kg以上
ひ酸水素イオン 1.3mg/kg以上
メタ亜ひ酸 1mg/kg以上
総硫黄 1mg/kg以上
メタほう酸 5mg/kg以上
メタけい酸 50mg/kg以上
炭酸水素ナトリウム 340mg/kg以上
ラドン 20以上
ラジウム塩 1億分の1mg/kg以上

これはいわば、温泉になるための合格スイッチ一覧だ。「総量で合格する湯」もあれば、「メタけい酸で合格する湯」「遊離炭酸で合格する湯」「ラドンで合格する湯」もある。

温泉の成分

温泉分析書

この温泉分析書では、成分総計が1.25g/kg。つまり、温泉に該当する基準である「溶存物質1000mg/kg以上」をクリアしている。

さらに中身を見ると、陽イオンではカルシウムイオン、陰イオンでは硫酸イオンがかなり目立つ。塩化物イオンもあるが、主役級はカルシウムと硫酸イオンだ。

この湯を表現するなら、「カルシウム強め、硫酸イオン主役のキリッと硬派な湯」という感じである。

一方、遊離二酸化炭素や遊離硫化水素は0.0mgなので、「シュワシュワ炭酸系」や「硫黄ムンムン系」ではない。こうやって見ると、温泉分析書は急に面白くなる。ただの数字の羅列ではなく、温泉のキャラ紹介文に変わるのだ。

溶存物質量は「3つのチーム」に分かれている

種類 概要 温泉での役割
陽イオン プラスの電気を持つ成分 温泉のベースキャラを作る
陰イオン マイナスの電気を持つ成分 泉質名や効能の方向性を決める
遊離成分 イオンにならず自由にいる成分 香り・肌ざわり・個性を足す

温泉分析書に出てくる「溶存物質量」は、温泉に溶け込んでいる成分の総まとめだ。
ただし、中身をよく見ると、成分たちは大きく3つのチームに分かれている。

陽イオン:温泉の"ベースキャラ"

陽イオン:温泉の“ベースキャラ”を作るチーム

陽イオンは、プラスの電気を持つ成分たち。温泉分析書では、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオンなどが並んでいる。

ナトリウムが多ければ、保温系のしょっぱい湯になりやすい。

カルシウムが多ければ、キリッと引き締まった硬派な湯になりやすい。
鉄が多ければ、色や香りにクセのある個性派温泉になりやすい。

陰イオン:温泉の“性格と方向性”

陰イオン:温泉の“性格と方向性”を決めるチーム

陰イオンは、マイナスの電気を持つ成分たち。温泉分析書では、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオン、ふっ化物イオンなどが登場する。

塩化物イオンが多ければ、湯冷めしにくい保温系。
炭酸水素イオンが多ければ、肌をなめらかにする美肌系。
硫酸イオンが多ければ、すっきりキリッとした浴感の湯になりやすい。

遊離成分:温泉の“クセ・香り・演出”

遊離成分:温泉に“クセ・香り・演出”を足すチーム

そして3つ目が、遊離成分。これは陽イオンや陰イオンのように電気を帯びてチーム戦をしているわけではなく、温泉の中に比較的自由な形で存在している成分たちだ。

代表は、メタけい酸、メタほう酸、遊離二酸化炭素、遊離硫化水素など。

メタけい酸が多ければ、しっとり保湿系。
遊離二酸化炭素が多ければ、シュワシュワ炭酸系。
遊離硫化水素が多ければ、硫黄の香りが立つ“温泉来た感”の強い湯になる。

温泉の主役級の溶存物質量

ナトリウム+塩化物イオン:保温系

ナトリウム+塩化物イオン:保温系の“あったかコート”

ナトリウムと塩化物イオンが多い湯は、いわゆる塩分系の温泉だ。入ると肌に薄い塩のヴェールをまとったようになり、湯上がり後もポカポカ感が続きやすい。

寒い日、冷えが気になる日には頼れる存在。温泉界のダウンジャケット担当である。

塩味を感じる温泉は、このタイプであることが多い。

ナトリウム+塩素イオン(塩化物イオン)が240ミリバル/kg以上は「強塩泉」になり、塩味がして体が温まりやすい。

炭酸水素イオン:肌をなめらかにする

炭酸水素イオン:肌をなめらかにする“美容部員”

炭酸水素イオンが多い湯は、肌をなめらかに整える美容系キャラだ。皮脂や古い角質を落としやすく、入浴後に「肌がつるん」と感じやすい。

泉質名に「炭酸水素塩泉」とついていなくても、炭酸水素イオンがしっかり入っていれば、美肌系の個性を持っている可能性がある。

泉質名に限らず、炭酸水素イオンが1,000mg以上あれば、美肌効果が実感できる。ナトリウム(イオン)と炭酸水素イオンの重量が80%を超えると、つるつる度が高い。

炭酸イオン:ツルツル感を出す

炭酸イオン:ツルツル感を出す“すべすべ職人”

炭酸イオンも、ツルツル感に関係する注目成分だ。20mg/kg以上あるとツルツル感がわかりやすくなり、30mg/kg以上になるとかなり存在感が出てくる。

アルカリ性の温泉で「ぬるぬるする」「肌がすべる」と感じるとき、この成分が裏で仕事をしていることがある。埼玉県の秩父にある「梵の湯」は90mg以上で、奥熊野温泉は280mg以上という驚異である。

カルシウムイオン:キリッと引き締める

カルシウムイオン:キリッと引き締める“硬派キャラ”

カルシウムイオンが多い湯は、キリッとした浴感を持つ、硬派な温泉になりやすい。

新しい角質層の形成を助けるとされ、肌を整える方向にも働く。また、神経を落ち着かせたり、手足のこわばりをやわらげたりする成分としても注目される。

神奈川県の鶴巻温泉の「弘法の里湯」は、世界一カルシウムイオンが含まれる温泉である。

鉄イオン:色も香りも個性的

鉄イオン:色も香りも個性的な“クセ者スター”

温泉の中に、5mg/kgの鉄分があれば褐色になる。多いほど、黄緑→黄色→茶褐色になる。20mg/kg以上で含鉄泉になる。含鉄泉までいかなくとも、「鉄」の含有量が多いと湯冷めしにくく、体が温まる。温熱効果が高い。

メタけい酸:温泉界の“保湿クリーム”

メタけい酸:温泉界の“保湿クリーム”

メタけい酸は、保湿成分として注目される成分だ。100mg/kg以上あると「美人の湯」と呼ばれる。ちなみに、500mg/kg以上 あると温泉が青くなる。

肌のしっとり感を狙うなら、ぜひチェックしたい項目である。

遊離二酸化炭素:血行応援団”

遊離二酸化炭素:シュワシュワ系の“血行応援団”

遊離二酸化炭素、いわゆる遊離炭酸が多い温泉は、炭酸ガスの個性が出る。肌に細かな泡がつくような湯で、血行促進系の温泉として人気が高い。

1000mg/kg以上で二酸化炭素泉に分類されるが、700mg/kg以上あれば炭酸の個性をかなり感じやすい。

硫化水素イオン・遊離硫化水素:硫黄香る

硫化水素イオン・遊離硫化水素:硫黄香る“温泉らしさ担当”

硫化水素イオンや遊離硫化水素が多いと、硫黄泉らしい香りや白濁、場合によっては緑がかった色に関係してくる。

2mg/kgから「硫黄泉」になる。焦げたような硫黄臭がし、白濁する要因となる。

いわゆる「温泉に来たぞ!」感を演出するスター成分だ。焦げたような硫黄臭、白いにごり湯、エメラルドグリーンの湯など、見た目と香りで一気に記憶に残る。ただし個性が強いぶん、換気や入浴時間には注意したいタイプでもある。

よう化物イオン:“体質改善”担当

よう化物イオン:黒っぽい“体質改善の湯”担当

よう化物イオンは、ヨウ素を含む温泉成分だ。温泉水1kg中に10mg以上含まれると「含よう素泉」と呼ばれる。

ヨウ素は、傷薬やうがい薬にも使われる成分で、殺菌作用が特徴。温泉では全身の代謝を促し、コレステロール低下にも関係するとされるため、含よう素泉は**「体質改善の湯」とも呼ばれる。

見た目は茶褐色から黒っぽい色になりやすく、香りは少し薬品っぽい。飲泉するとピリッとした薬味を感じることもある。よう化物イオンは、温泉界の薬箱キャラ。
派手な美肌系ではないが、体の内側からじわっと働きかける実力派成分だ。

ラドン:名前が怖い“免疫応援団”

ラドン:ちょっと名前が怖い“免疫応援団”

ラドンは、放射能泉に関係する成分だ。温泉水1kg中にラドンを3ナノキュリー以上含むと、「放射能泉」と呼ばれる。

「放射能」と聞くと身構えてしまうが、温泉に含まれるのはごく微量。ラドンは体内に入っても数時間で呼気から排出されるため、体に長く残りにくいとされる。

放射能泉は「ラジウム温泉」「ラドン泉」とも呼ばれ、微量の放射線刺激によって体の働きを活性化させると考えられている。痛風などに良い湯として知られ、飲泉に利用されることもある。

見た目は、無色透明でクセが少ないことが多い。つまりラドンは、見た目は静かなのに中身は実力派の、温泉界の隠しボス成分である。

【参考】その他の温泉の溶存物質

その他の温泉の溶存物質

硝酸イオン

無臭で、派手な特徴はないが、体の内側と外側にやさしく働きかけてくれる“静かな名脇役。殺菌効果や抗炎症作用があり、切り傷や関節炎、筋肉痛などの痛みや炎症を和らげる。

マグネシウム

ミネラルの種類で含有量が多いと「正苦味泉」になり、飲泉したときの苦味が強い。身体への浸透がよく、疲労回復などの効果がある。

アルミニウム

殺菌消毒作用があり、肌の表面を保護し、ハリを回復させる効果、皮膚病にも効く。

水素イオン

1mg/kgから酸性泉になる。0.7mg/kgから酸味がする。

硫化水素イオン    

硫化水素イオンが多いと緑色になり、塩化ナトリウムとの組み合わせでエメラルドグリーンになる。

メタほう酸

目に酸性やアルカリ性の異物が入ったときに中和作用があり、痛みを緩和してくれる。基準値は5mg。

溶存物質量は、温泉の“中身”を読むための鍵

溶存物質量は、温泉の濃さだけを見る数字ではない。本当に大事なのは、どんな成分が、どれくらい入っているかである。

塩分が多ければ、保温系。
炭酸水素イオンが多ければ、美肌系。
カルシウムが多ければ、キリッと硬派系。
鉄が多ければ、色も香りも個性的なクセ者系。
メタけい酸が多ければ、しっとり保湿系。
遊離炭酸が多ければ、シュワシュワ血行応援系。

泉質名が温泉のキャラクター名なら、溶存物質量の内訳はステータス画面だ。

次に温泉分析書を見たときは、ぜひ成分表をのぞいてみてほしい。
そこには「この湯、ただ者じゃないな」と思わせる、温泉たちの個性がぎっしり詰まっている。

 

 

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