
温泉分析書を読めるようになると、温泉の見え方が変わる。
泉質、pH値、泉温、浸透圧。どれも大事だが、温泉好きならもうひとつ見逃してはいけない数字がある。
湧出量。読み方は「ゆうしゅつりょう」。ざっくり言えば、1分間にどれくらいの温泉が湧き出しているかを示す数字である。
たとえば、温泉分析書に、「湧出量:100L/分」と書いてあれば、その源泉から1分間に100リットルの温泉が湧いているということ。
100リットルと聞くと、ペットボトル50本分。それが毎分、地中からドバドバ出ている。温泉は、地球が勝手に沸かしてくれる巨大な給湯器である。
湧出量は、温泉の“湯量”を示す数字

湧出量とは、1分間あたりに湧き出す温泉の量のこと。
単位は、L/分またはリットル毎分で表示されることが多い。
温泉分析書を見ると、泉質やpH値の近くにひっそり書かれている。しかし、この数字はかなり重要だ。
なぜなら湧出量を見ると、その温泉が、湯をたっぷり使える温泉なのか源泉かけ流しに向いている温泉なのか、加水や循環が必要になりやすい温泉なのか、鮮度の良い湯を楽しみやすい温泉なのかが見えてくるからだ。
湧出量が多いと鮮度の良い温泉になりやすい

温泉は、湧いた瞬間がいちばんフレッシュである。湧きたての源泉は、成分も香りも個性も立っている。まさに地球から出たての一番搾り。
湧出量が多い温泉は、その新しい湯をどんどん浴槽に注ぎやすい。つまり、浴槽の湯が入れ替わりやすい。
逆に湧出量が少ないと、浴槽の湯をすべて新しい源泉だけで満たし続けるのは難しくなる。その場合、加水したり、循環式を採用したりすることもある。
もちろん、循環式がすべて悪いわけではない。衛生管理や温度管理のために必要な場合もある。ただ、源泉の個性をそのまま味わいたい人にとって、湧出量は大きなヒントになる。
温泉は、鮮魚と少し似ている。獲れたてがうまい。湧きたてもうまい。
目安は毎分20リットル以上
湧出量を見るときのひとつの目安として、毎分20リットル以上がある。このくらいの湧出量があれば、比較的鮮度の良い温泉になりやすいと考えられる。
もちろん、浴槽の大きさ、利用人数、加水・加温・循環の有無によって状況は変わる。
毎分20リットルあれば絶対に最高、という単純な話ではない。
ただ、温泉分析書で湧出量を見つけたら、20L/分以上あるか?
これはひとつのチェックポイントにしていい。
毎分20リットル未満ならダメ、という意味ではない。だが、湯量に限りがあるぶん、浴槽の規模や運用方法を見たいところだ。
温泉分析書は、数字の履歴書である。湧出量は、その温泉の体力欄に書かれている。
100リットル/分の温泉の凄さ

湧出量のイメージがわきにくい人は、こう考えるとわかりやすい。100L/分の湧出量があれば、源泉かけ流しで1日100名ほどの湯客が衛生的に入浴できる目安になる。
つまり、湯量が多いほど、たくさんの人が入っても浴槽の湯を新しく保ちやすい。
逆に、収容人数に対して湧出量が少ないと、湯の入れ替わりが追いつきにくくなる。その場合、循環、加水、加温、消毒などの工夫が必要になる。
大事なのは、湧出量と浴槽サイズと利用人数のバランスである。小さな湯船に毎分100リットルなら、もう湯が元気すぎる。回転寿司のレーンに、寿司職人が全速力で皿を投げ込んでくるようなものだ。
一方、大浴場に毎分10リットルなら、かなり大事に使う必要がある。
湧出量は、単体で見る数字ではない。その温泉が何人を相手に、どれくらいの浴槽で勝負しているかとセットで見ると面白い。
湧出量が多いと「源泉かけ流し」に近づきやすい
温泉好きが大好きな言葉がある。
源泉かけ流し。
この言葉を見ると、温泉好きの目は少しだけ光る。スマホの充電が100%になったときくらい安心する。源泉かけ流しとは、源泉を浴槽に注ぎ、あふれた湯を再利用せず流していく入浴方式のこと。
この方式を成立させるには、当然ながら湯量が必要だ。浴槽に新しい湯を入れ続けるのだから、湧出量が少ないと難しい。
湧出量が多い温泉は、源泉かけ流しを実現しやすい。一方、湧出量が少ない温泉では、循環式にしたり、加水や加温で調整したりすることがある。
つまり湧出量は、温泉の入り方そのものに関係する。こうした運営の裏側が、湧出量から見えてくる。
温泉分析書を読むとは、湯船の向こう側を読むことでもある。
湧出量と源泉温度はセットで見る

湧出量は多ければ多いほどいい。そう思いたくなるが、実際には源泉温度との組み合わせも大切だ。
たとえば、湧出量が多くても源泉温度が低ければ、入浴に適した温度まで加温が必要になることがある。
逆に、源泉温度が高すぎる場合は、そのままでは熱くて入れない。その場合、加水して温度を下げたり、湯もみや熱交換などで調整したりする。
湧出量が水量担当。泉温が温度担当。温泉という現場では、この2人が裏で相談しながら湯船を仕上げている。
湧出量が少ない温泉はダメなのか?

では、湧出量が少ない温泉はダメなのか。もちろん、そんなことはない。
湧出量が少なくても、泉質が素晴らしい温泉はある。成分が濃かったり、香りが個性的だったり、浴槽を小さくして丁寧に使っていたりする温泉もある。
大事なのは、湧出量に合った使い方をしているかどうか。湧出量が少ないのに、大きな浴槽で大人数を受け入れていると、湯の鮮度を保つのは難しくなる。
逆に湧出量が少なくても、小さな湯船に少人数で入るなら、十分に満足度の高い温泉になることもある。温泉は、湯量の大食い競争ではない。
少ない湯を大切に使う温泉にも、静かな良さがある。湯量が少ないからこそ、浴槽が小さく、落ち着いていて、秘湯感がある場合もある。
湧出量は、優劣を決める数字ではなく、入り方と運営を読む数字である。
湧出量が多い名物温泉:入之波温泉・山鳩湯

湧出量の話で外せないのが、奈良県の入之波温泉・山鳩湯。この温泉は、毎分500リットルの湧出量を誇るとされる。毎分500リットル。
ペットボトルで考えると、2リットルボトル250本分。それが1分で湧く。もはや湯の勢いが豪族である。
湯量が豊富な温泉は、それだけで魅力がある。浴槽に注がれる音、あふれる湯、湯船の鮮度感。「温泉が生きている」という感じが伝わってくる。
温泉好きが湧出量に反応するのは、そこにロマンがあるからだ。地中深くから、絶えず湯が湧き出している。その湯に、こちらはただ浸からせてもらう。人間は湯船で偉そうにしているが、主役は完全に地球である。
県別の温泉湧出量ベスト10
では、都道府県別に見ると、どこが湯量王国なのか。以下が、県別の温泉湧出量ベスト10である。
| 順位 | 都道府県 | 湧出量 |
|---|---|---|
| 1位 | 大分県 | 296m³/分 |
| 2位 | 北海道 | 196m³/分 |
| 3位 | 鹿児島県 | 175m³/分 |
| 4位 | 青森県 | 139m³/分 |
| 5位 | 熊本県 | 130m³/分 |
| 6位 | 岩手県 | 112m³/分 |
| 7位 | 静岡県 | 110m³/分 |
| 8位 | 長野県 | 105m³/分 |
| 9位 | 秋田県 | 88m³/分 |
| 10位 | 福島県 | 77m³/分 |
堂々の1位は大分県。温泉県としての貫禄がすごい。
別府、由布院を抱える大分県は、やはり湯量でも強い。温泉界のラスボス感がある。
2位は北海道。土地が大きいだけでなく、温泉資源も大きい。さすがスケールが違う。
3位は鹿児島県。火山の力を感じる温泉地が多く、湯量にも説得力がある。
青森、熊本、岩手、静岡、長野、秋田、福島と続くランキングを見ても、火山、山地、温泉文化の濃い地域が並んでいる。
湧出量ランキングは、地球の体力測定みたいなものだ。
温泉分析書で湧出量を見るときのポイントまとめ

温泉分析書で湧出量を見るときは、次のポイントを意識したい。
| チェック項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 湧出量 | 1分間に何リットル湧くか |
| 目安 | 20L/分以上なら鮮度の良い湯になりやすい |
| 収容人数 | 湧出量に対して利用者が多すぎないか |
| 浴槽の大きさ | 湯量に対して浴槽が大きすぎないか |
| 入浴方式 | かけ流し・加水・加温・循環の有無 |
| 泉温 | そのまま入れる温度か、調整が必要か |
このあたりを見ると、温泉の裏側がだいぶ見えてくる。
湧出量が多い。浴槽が小さい。利用人数も多すぎない。源泉かけ流し。これはかなり期待できる組み合わせだ。
湧出量は、温泉の“鮮度と余裕”を読む数字。温泉分析書で湧出量を見つけたら、こう思ってほしい。
この温泉、どれくらい湯に余裕があるのか?湧出量は、温泉の鮮度を読む数字であり、運営の裏側をのぞく数字でもある。
温泉はただ湧いているのではない。どれだけ湧き、どう使われているかで、湯船の表情は変わる。泉質だけ見ていた人は、次からぜひ湧出量も見てほしい。そこには、温泉の“湯の勢い”が書かれている。
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