
箱根や湯河原の名湯に加え、湘南の黒湯や都市型スパまで、神奈川は一県で温泉文化の縮図を体験できる。山・海・街という立地の幅に、硫黄泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、単純泉など泉質の多様性が重なる。
奈良時代からの古湯と現代的な施設が共存し、旅の目的や滞在時間に合わせた最適解が必ず見つかる。温泉ソムリエの資格を持つ筆者が、日帰り派も宿泊派も、絶対に満足する名湯を紹介する。
神奈川県の温泉の魅力
泉質の多様性

神奈川県は泉質のバリエーションが非常に豊富である。箱根温泉郷だけでも20近い源泉エリアがあり、硫黄泉・塩化物泉・炭酸水素塩泉・単純泉など多彩な泉質を楽しむことができる。湯河原温泉は弱アルカリ性単純泉や硫酸塩泉が中心で、美肌効果の高い湯として知られる。厚木市の七沢温泉は強アルカリ性単純泉で、入浴後は肌がつるつるになる泉質が特徴だ。三浦半島や湘南エリアの温泉は海に近いため塩化物泉が多く、保温効果に優れる。一県の中でこれほど多様な泉質を体験できる地域は全国的にも珍しい。
温泉の立地

山間部、海沿い、都市部と立地の幅広さも神奈川の温泉の強み。箱根や湯河原、丹沢周辺は山間部に位置し、四季折々の自然とともに温泉を楽しめる。江の島や三浦半島は海沿いの立地で、海を眺めながらの入浴は格別である。横浜や川崎など都市部ではスーパー銭湯やスパ施設が充実しており、アクセスの良さから気軽に立ち寄ることができる。自然に囲まれた湯から都市型スパまで、利用シーンに応じて選べるのが特徴である。
歴史と文化的背景

神奈川の温泉は古代から人々に親しまれてきた歴史を持つ。箱根温泉は奈良時代から記録が残り、江戸時代には東海道の宿場町として旅人を癒す役割を担った。湯河原温泉は『万葉集』にも詠まれた古湯であり、明治以降は夏目漱石や島崎藤村といった文人墨客にも愛された。厚木市の七沢温泉は江戸時代から湯治場として利用され、「関東の秘湯」と呼ばれてきた。江の島や鎌倉周辺の温泉は歴史的観光地と組み合わせて楽しめる点が魅力である。古くからの温泉文化と近代的な都市型スパが共存している点も、神奈川県の温泉の大きな特徴である。
神奈川県おすすめ温泉ランキング
1位:稲村ヶ崎温泉(鎌倉市)

湘南・稲村ヶ崎の海岸沿いに佇む「稲村ヶ崎温泉」は、2005年に誕生した比較的新しい温泉施設だ。江ノ電「稲村ヶ崎駅」から徒歩圏という立地で、鎌倉観光や海辺散歩の後に立ち寄れるのが魅力。窓の外に広がる湘南の海と夕陽の絶景が最大の特徴で、“海景と温泉”を同時に堪能できる稀少な一湯である。

泉質は「ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉(旧:純重曹泉)」で、黒褐色のモール泉。炭酸水素イオン量は1,077mgと豊富で、角質をやわらかくし肌をなめらかに整える美肌効果が高い。湯に含まれる有機質が黒湯の色合いを生み出しており、独特のとろみがある。水風呂まで源泉かけ流しの黒湯を使用している点も他にない特徴で、冷たさの中に柔らかさを感じる極上の体験となる。
内湯・露天風呂ともに海に面し、夕暮れ時には湯面に反射するオレンジロードが幻想的な光景を作り出す。夕陽が黒湯を黄金色に染め上げる瞬間は、ここでしか味わえない非日常感を与えてくれる。

さらに併設の「Ninai Oriental Cafe」では、湘南しらすを使った料理やベトナム料理、クラフトドリンクなどを提供。温泉と食事で湘南カルチャーを丸ごと楽しめる。
観光・登山・海遊びと合わせて利用できる立地、個性的な泉質、そして圧倒的なロケーション。稲村ヶ崎温泉は、神奈川の温泉を語るうえで外せない名湯である。
稲村ヶ崎温泉の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 稲村ヶ崎温泉 |
| 住所 | 神奈川県鎌倉市稲村ガ崎1-16-13 |
| 電話番号 | 0467-22-7199 |
| アクセス | 江ノ島電鉄「稲村ヶ崎駅」から徒歩5分 |
| 駐車場 | あり(台数限定・有料) |
| 営業時間 | 9:00〜21:00(最終受付 20:00) |
| 定休日 | 不定休(年数回メンテナンス休館あり) |
| 入館料金 | 大人1,500円/子ども750円(※タオル別) |
| 泉質 | ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉(低張性・弱アルカリ性・冷鉱泉) |
| 泉温 | 20.8℃(加温あり) |
| pH値 | 8.3 |
| 特徴 | 黒湯のモール泉、美肌の湯、夕陽を望む絶景露天風呂、水風呂も源泉かけ流し、併設カフェで湘南グルメを楽しめる |
2位:底倉温泉 つたや旅館(箱根・宮ノ下)

箱根七湯の一つに数えられる「底倉温泉」は、戦国時代に豊臣秀吉が小田原攻めの際に石風呂を造らせたという伝承を持つ古湯。その源泉を今に伝えるのが「つたや旅館」である。江戸時代創業の老舗で、現在はゲストハウス形態を取りつつも、伝統と革新を融合させた温泉宿として国内外の旅行者を迎えている。

旅館の自慢は、伊豆青石を全面に用いた露天風呂。濡れると青味が増し、湯と渓谷の緑に溶け合う。蛇骨川の清流と「太閤の滝」の轟音をBGMに、歴史と自然が一体となった入浴体験が味わえる。内湯には洗い場を備え、露天は純粋に湯に浸かる場と役割を分けており、空間演出も秀逸だ。

泉質は「ナトリウム-塩化物温泉」。無色透明でクセが少なく、保温効果に優れた“やさしい湯”として親しまれている。美肌効果成分のメタけい酸を含み、肌にしっとり感を与える。源泉かけ流しだが加水・加温・循環を併用し、最適なバランスを保っている点も評価できる。
歴史的背景、渓谷の自然美、そして青石がつくる神秘的な浴槽。つたや旅館は、温泉を「湯と空気の掛け算」として味わう箱根屈指の名宿である。
底倉温泉 つたや旅館の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 底倉温泉 つたや旅館 |
| 住所 | 神奈川県足柄下郡箱根町底倉240 |
| 電話番号 | 0460-82-2246 |
| アクセス | 箱根登山鉄道「宮ノ下駅」より徒歩12分 |
| 駐車場 | あり(宿泊者無料) |
| 営業時間 | 宿泊者専用(チェックイン15:00〜/チェックアウト10:00) |
| 定休日 | 不定休 |
| 入館料金 | 宿泊専用(素泊まり7,200円〜) |
| 泉質 | ナトリウム-塩化物温泉(低張性・弱アルカリ性・高温泉) |
| 泉温 | 56.4℃(加水・加温あり) |
| pH値 | 7.8 |
| 特徴 | 秀吉ゆかりの古湯、伊豆青石の露天風呂、渓谷の自然音に包まれる空間、美肌成分を含むやさしい湯 |
3位:強羅温泉 箱根太陽山荘(箱根・強羅)

強羅温泉は明治〜大正期に開かれた比較的新しい温泉地だが、大涌谷から引き湯する乳白色の硫黄泉が特徴的で、箱根を代表する泉質のひとつを味わえる。「国民宿舎箱根太陽山荘」は1942年創業の老舗で、宿泊と日帰り入浴の両方に対応する数少ない施設である。

館内の浴室は、内風呂と露天風呂が一体化した“ハイブリッド浴室”。乳白色の湯気に包まれながら硫黄の香りが漂い、箱根らしさを濃縮した時間を提供する。泉質は酸性‐硫酸塩泉で「傷の湯」としても知られ、肌や関節をやさしく癒す力がある。
日帰り入浴は1日4時間のみ、料金1,200円とシンプルだが、その分鮮度の高い湯を存分に楽しめる。宿泊は伝統的な木造建築の落ち着いた雰囲気で、強羅観光の拠点としても最適。
強羅温泉は「箱根十七湯」に数えられるが、泉質の実力は箱根湯本を凌駕する。短時間高密度で“箱根らしい硫黄泉”を堪能できる太陽山荘は、温泉好きには外せない一湯である。
強羅温泉 国民宿舎箱根太陽山荘の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 国民宿舎 箱根太陽山荘 |
| 住所 | 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320 |
| 電話番号 | 0460-82-3311 |
| アクセス | 箱根登山鉄道「強羅駅」から徒歩3分 |
| 駐車場 | あり(宿泊者無料) |
| 営業時間 | 日帰り入浴 12:00〜16:00(最終受付15:00) |
| 定休日 | 不定休 |
| 入館料金 | 日帰り1,200円/宿泊8,000円〜 |
| 泉質 | 酸性‐カルシウム・マグネシウム‐硫酸塩・塩化物泉 |
| 泉温 | 約60℃(加水あり) |
| pH値 | 約2.5〜3.0(源泉) |
| 特徴 | 大涌谷由来の乳白色硫黄泉、短時間営業で鮮度高い湯、駅近で便利 |
4位:鶴巻温泉 弘法の里湯(秦野市)

鶴巻温泉は大山詣りの登山客に古くから愛されてきた温泉地で、現在の中心施設が「弘法の里湯」である。秦野市が運営する公共の日帰り温泉で、駅から徒歩2分という抜群のアクセスを誇る。

泉質は「カルシウム・ナトリウム-塩化物泉」。特筆すべきはカルシウムイオン含有量が2,580mg/kgと世界屈指の高さで、神経鎮静や痙攣緩和などの効果が期待される。また、成分総量は11,259mgと希少な“1万超え”の濃度を誇り、体の芯から温まる“温まりの湯”として知られる。

浴室は「石造りの山湯」と「ひのき造りの里湯」の2種類が日替わりで楽しめる。内湯と露天風呂で源泉の性質が変わり、濃厚な高張性泉とマイルドな低張性泉のコントラストが楽しめるのもユニークだ。
休日は登山者で混雑するため、平日の利用がおすすめ。アクセス・泉質・料金のバランスに優れ、丹沢登山とセットで楽しむには最適の一湯である。
鶴巻温泉 弘法の里湯の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 鶴巻温泉 弘法の里湯 |
| 住所 | 神奈川県秦野市鶴巻北3-1-2 |
| 電話番号 | 0463-69-2641 |
| アクセス | 小田急線「鶴巻温泉駅」から徒歩2分 |
| 駐車場 | あり(有料・割引あり) |
| 営業時間 | 10:00〜21:00(最終受付20:30) |
| 定休日 | 月曜(祝日の場合は翌日) |
| 入館料金 | 大人1,000円/子ども500円 |
| 泉質 | カルシウム・ナトリウム-塩化物泉(高張性・アルカリ性) |
| 泉温 | 34.3℃ |
| pH値 | 8.5 |
| 特徴 | 世界屈指のカルシウム濃度、温まり持続力、日替わり浴場、登山帰りに最適 |
5位:湯河原温泉 ホテル城山(湯河原町)

関東最古級の湯として知られる湯河原温泉は、『万葉集』にも詠まれる歴史ある温泉地。その玄関口で気軽に立ち寄れるのが、駅前の「ホテル城山」である。
創業は1999年と新しいが、館内は清潔で快適。レストランや屋上庭園からは湯河原の街並みや相模湾が望め、日帰り入浴だけでなく滞在そのものを楽しめる工夫が施されている。

泉質は「ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉」。保温効果の高い塩化物泉と、血行促進に優れる硫酸塩泉を併せ持ち、バランスが良い。メタけい酸も101mg含まれ、美肌の湯としての側面もある。

日帰り入浴料は1,870円とやや高めだが、タオルや浴衣がセットになっており、駅近の利便性と快適さを考えれば納得の価格。奥湯河原の名宿に行けない場合でも、駅前で湯河原らしい泉質を体験できる貴重なスポットである。
湯河原温泉 ホテル城山の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 湯河原温泉 ホテル城山 |
| 住所 | 神奈川県足柄下郡湯河原町城堀207 |
| 電話番号 | 0465-63-0151 |
| アクセス | JR東海道線「湯河原駅」から徒歩2分 |
| 駐車場 | あり(宿泊者無料) |
| 営業時間 | 日帰り入浴 12:00〜21:00 |
| 定休日 | 不定休 |
| 入館料金 | 大人1,870円(タオル・浴衣付き) |
| 泉質 | ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉(弱アルカリ性・高温泉) |
| 泉温 | 61.7℃(加水・加温あり) |
| pH値 | 8.2 |
| 特徴 | 駅前リゾート感覚、塩化物×硫酸塩のブレンド泉、美肌効果あり、屋上庭園からの眺望 |
6位:有馬療養温泉旅館(川崎市)

川崎市鷺沼にある「有馬療養温泉旅館」は、首都圏で唯一の単純炭酸鉄泉を持つ施設。1968年に創業し、以来“霊光泉”と呼ばれ湯治目的の客を受け入れてきた。住宅街の中にある静かな秘湯として温泉ファンに知られている。

泉質は「単純鉄冷鉱泉」。湧出時は無色透明だが、空気に触れて酸化し茶褐色に変化する。鉄分を29mg含み、基準を超える“含鉄泉”として認定される。加温のみで源泉かけ流しを実現しており、クセが少なくやさしい肌触り。毎日でも入りたくなるような家庭的な湯である。
館内はレトロな趣で、休憩室も併設。娯楽性は少ないが、体と心を整える“療養の湯”としての魅力にあふれる。歴史的には修験者・役小角や源頼朝が浸かったとの伝承も残り、文化的価値も高い。

都市近郊で鉄泉を味わえる希少性と、静かに長湯できる落ち着き。有馬療養温泉旅館は、派手さのない“じんわり効く温泉”を求める人にふさわしい。
有馬療養温泉旅館の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 有馬療養温泉旅館 |
| 住所 | 神奈川県川崎市宮前区有馬6-17-23 |
| 電話番号 | 044-977-5639 |
| アクセス | 東急田園都市線「鷺沼駅」から徒歩25分/バス5分 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| 営業時間 | 10:00〜20:00 |
| 定休日 | 水曜 |
| 入館料金 | 大人1,300円 |
| 泉質 | 単純鉄冷鉱泉(単純炭酸鉄泉)/低張性・中性・冷鉱泉 |
| 泉温 | 13.0℃(加温あり) |
| pH値 | 6.8 |
| 特徴 | 首都圏唯一の炭酸鉄泉、加温かけ流し、茶褐色の赤湯、療養・静養向き |
7位:横須賀温泉 湯楽の里(横須賀市)

「横須賀温泉 湯楽の里」は、東京湾を一望できる日帰り温泉施設。馬堀海岸駅から徒歩圏にあり、2011年にオープンした比較的新しい施設である。館内は大型チェーンらしい快適性が整い、地元客から観光客まで幅広く利用されている。

最大の魅力は露天風呂からの眺望。晴れた日には富士山まで望め、海と空の大パノラマを堪能できる。泉質は「含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉」で、ナトリウムイオン量は1万mg超と強塩系。全身を芯から温め、湯冷めしにくい。さらによう素含有量も関東屈指で、希少性が高い。
浴槽は種類が豊富で、内湯・炭酸泉・寝湯・水風呂など充実。食事処や物販コーナーもあり、一日過ごせる施設力がある。接客も丁寧で、ファミリーやカップルにも安心して勧められる。
温泉単体の個性は控えめだが、“絶景露天×強塩泉×快適設備”という総合力で高い満足度を誇る。観光やドライブの合間に立ち寄りたい海辺の温泉である。
横須賀温泉 湯楽の里の情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 横須賀温泉 湯楽の里 |
| 住所 | 神奈川県横須賀市馬堀海岸4-1-23 |
| 電話番号 | 046-845-1726 |
| アクセス | 京急本線「馬堀海岸駅」から徒歩12分 |
| 駐車場 | あり(無料・200台規模) |
| 営業時間 | 9:00〜24:00(最終受付23:00) |
| 定休日 | 年中無休(メンテナンス休業あり) |
| 入館料金 | 大人平日1,150円/土日祝1,350円 |
| 泉質 | 含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉(高張性・中性・低温泉) |
| 泉温 | 29.5℃(加温あり) |
| pH値 | 7.24 |
| 特徴 | 東京湾を望む絶景露天、強塩泉で温まり持続、施設充実でファミリー利用に最適 |
そのほか神奈川県おすすめ温泉
日本のおすすめ温泉ランキング
東京のおすすめ温泉ランキング
静岡のおすすめ温泉
埼玉のおすすめ温泉
群馬の温泉ランキング
温泉の泉質を知る
温泉の効果と魅力
温泉のおすすめ入浴方法
温泉の歴史と文化
温泉の本を出版しました♨️

Amazon Kindle『温泉クライマー』