湯遊白書〜そこに温泉があるから

ここは天国かい?いや、温泉だよ。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。2017年11月23日、温泉ソムリエ協会認定「温泉ソムリエ」の資格を取得。本ブログの情報は平成29年8月発行の『温泉ソムリエ テキスト』(著者・遠間和広)に基づいています。

御嶽と木曽温泉ホテル〜鉄錆の湯に溶ける山の記憶

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木曽の霊峰・御嶽に登るクライマーに薦めたい宿がある。御嶽に登るときは脚を癒やす名湯『木曽温泉ホテル』

木曽温泉ホテル

外観から察しがつくように、ホテルより旅館のほうがしっくりくる。料金は1泊2食付きで1万円。御嶽の労を癒してくれるのは茶褐色のにごり湯。冬のカフェ・オレのような暖をくれる。
静寂のなか御嶽登山を振り返るも良し、次なる山に想いを馳せるも良し。島崎藤村の『夜明け前』の冒頭で「木曽路はすべて山の中である」と言うように、木曽温泉ホテルも静かな山の中に佇んでいる。最寄りのコンビニまでは1kmあり、完全に閉ざされた空間。車を30分走らせて開田高原があるくらい。
閑けさが湯とともに体に染み渡る。朝風呂、夜風呂とまた味わいが違う。人に疲れた都会人には、本当の贅沢と呼べる時間。ここは日帰り入浴もできるが、できれば宿泊をお勧めしたい。木曽温泉ホテルが振舞う手料理に舌鼓を打ってもらいたいからだ。

泉質

泉質は「ナトリウム・マグネシウム・カルシウムー炭酸水素塩・塩化物温泉(中性低張性高温泉)」。まんべんなく成分が入っている「分散型」と呼ばれる湯。内風呂も良いが、なんといっても冬に閉鎖されてしまう露天風呂。泉温は45.2 ℃。pH値は6.8。

これがあるから御嶽への登拝は冬以外をお勧めする。茶褐色の濁り湯は鉄が錆びた影響なのか、浸かっていると金属臭がぷーんと漂う。日常であれば嫌なニオイだが、旅先では芳香へと変わる。何十分でも浸かっていられる、いや、ここを離れたくない。温泉の引力。山の湯よろしく、少し清潔感を欠いた汚さも味わい深い。鉄の錆は歴史の熟成。50年以上も生き抜いたヴィンテージのワインにつかっているかのよう。

料理

自分は口コミをまったく信用しないが、やはり木曽温泉ホテルも評価は低い。多くの人は”ご馳走”ではなく、グルメや美食にしか満足しないのだろう。どこでも見るような揚げ物一つとっても、丹念に作られ、真剣に客人を振舞おうとする意気込みが感じられる。その熱意こそが、ご馳走の証。

天ぷらとキノコ汁は、木曽の恵みを堪能するのに、これ以上ない逸品。これらを”つまらない料理”と感じてしまうのは、よほどグルメに毒されているのだろう。どれも人間の温度が感じられるものばかりである。揚げ物も機械やチェーン店では作れない個性がある。日常に疲れた旅人は木曽温泉ホテルに足を休めて欲しい。そこに本当の贅沢がある。都会の静寂は、ただの空虚かもしれない。しかし、山の静寂は音楽。クライマーのための無音たちの交響曲。クライマーにとって温泉は、ただの癒しではない。何かをしっかり刻みつけ、何かを残していく。

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