湯遊白書〜そこに温泉があるから

ここは天国かい?いや、温泉だよ。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。2017年11月23日、温泉ソムリエ協会認定「温泉ソムリエ」の資格を取得。本ブログの情報は平成29年8月発行の『温泉ソムリエ テキスト』(著者・遠間和広)に基づいています。

魂が生まれ変わる草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

令和7年2月6日(木)、朝8時5分のバスタ新宿は外国人や若者でごった返している。草津温泉行きの上州ゆめぐり1号は満席。ほとんどが20代のカップルか大学のサークル旅行。孤独の湯めぐりは自分だけのようだ。

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

バスに揺られること4時間。榛名山を望む伊香保温泉を通過し、雪を抱いた本白根山(草津白根山)が見えてくる。車内には硫黄の香りが漂い、白銀の景色が迎え入れる。草津バスターミナル到着、時刻は11時53分。草津の町は、雪が静かに舞っていた。

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

二月の草津は白い。湯畑の湯けむりが雪と溶け合い、街全体を柔らかく包み込む。ほぼ下調べもせず、宿だけ予約して来た。チェックインまで3時間。どこから巡ろうか。「三大〇〇」という決まり文句は好きではないが、知識ゼロの自分にとっては便利な道標だ。まずは3つの温泉を制覇しよう。湯畑を背に、大滝乃湯へ向かう。

大滝乃湯 次元を超える温泉

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

草津は坂の町。路面は凍結し、足元が怖い。雪道用の爪を持ってきたが、使わず慎重に歩く。無料の共同浴場・地蔵の湯を通過し、大滝乃湯通りを進むと、大きな温泉施設が見えてきた。通りの名前にまでなっているとは、さすがの存在感。

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

駐車場には車が何台も停まっている。完全に雪に埋もれているものもある。大滝乃湯は1983年開業の日帰り温泉。なんと自分と同い年。最大の特徴は、ぬる湯から熱湯へ移動する「合わせ湯」。戦国武将が傷を癒やすために始めたといわれる。果たして、その湯の力はいかほどか。

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

館内は清潔で、大型のスーパー銭湯のような雰囲気。昔ながらの温泉の風情はないが、設備の充実度は申し分ない。12時17分、入浴料1100円を払う。

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

7年ぶりの草津温泉。その一番風呂。ここで印象が決まる。いざ、入浴。

水風呂

画像引用:大滝乃湯

浴室に入ってすぐ右に水風呂がある。これは素晴らしい。草津三湯や共同浴場の中で、水風呂があるのは大滝乃湯のみ。雪舞う真冬の水風呂は、温泉の気持ちよさを何倍にも増幅させる。息が止まりそうになるのをこらえ、10秒だけ身を沈める。

内湯

画像引用:大滝乃湯

大滝乃湯の内風呂は、煮川源泉と万代鉱源泉のブレンド(らしい)。ワインで言えば、まさに至高のボルドーブレンド。大滝乃湯で最も内湯が気持ちいい。煮川源泉は硫黄の香りが強く高温、万代鉱源泉は硫黄臭が少なく保水効果が高い。この二つが絶妙に混ざり合い、極上の湯に仕上がっている。ここだけでも十分満足できるレベルだ。

画像引用:大滝乃湯

露天風呂は煮川源泉の掛け流し。本来なら硫黄臭が強く高温だが、そこまで匂いは強烈ではない。湯も熱くはなく、ぬる湯に近い。ただし、煮川源泉は17.3mgと鉄分が多いので、温熱効果が高い。ちなみに20mgになれば、「含鉄泉」の泉質も持つことになる。

画像引用:大滝乃湯

大滝乃湯がウリにしている合わせ湯。5つの浴槽があり、ぬる湯から熱湯まで順に入っていく。煮川源泉のパワーを感じるならここが一番。

  • 泉質:酸性・含硫黄・アルミニウム-硫酸塩-塩化物塩(硫化水素型)(酸性・低張性・高温泉)
  • 泉温:48.8℃
  • pH値:2.1
  • 成分総計:1.81g

大滝乃湯の煮川源泉は、草津温泉に共通する強酸性泉であることが特徴。pH値は2.1と低く、水素イオンが1mg/kgを超えると「酸性泉」となる中で、煮川源泉は8.7mg。これにより、肌への刺激や殺菌効果が高く、まさに正真正銘の酸性泉といえる。

さらに、煮川源泉は硫黄泉の特徴も持つ。硫黄泉には「硫黄型」と呼ばれる無臭の温泉もあるが、大滝乃湯は「硫化水素型」。そもそも硫黄自体は無臭だが、その強い香りの正体は硫化水素ガス。大滝乃湯は遊離硫化水素を多く含むため、本来は強烈な硫黄臭が特徴。ただし、「合わせ湯」に浸かると、その匂いが気にならなくなる。これは、慣れによる麻痺かもしれないが、それだけ湯の質が優れている証拠でもある。

泉質の3番目に「アルミニウム」を豊富に含んでいることも特筆すべき点。殺菌消毒作用があり、肌の表面を保護し、ハリを回復させる効果が期待できる。

浸透圧は「低張性」で、成分が薄く肌に水分が浸透しやすい。そのため、保湿成分として重要なメタけい酸を236.6mgも含有。100mg以上で「美人の湯」と称されるため、その倍以上を誇る大滝乃湯は、まさに極上の保湿力を備えた温泉。

特徴まとめ

✔ 強酸性泉 → 殺菌効果が高く、肌への刺激が強い
✔ 硫化水素型 → 硫黄の強い香りを持つ
✔ アルミニウムが豊富 → 殺菌消毒作用があり、肌の保護とハリ回復をサポート
✔ メタけい酸が豊富 → 保湿効果が抜群で、「美人の湯」としての効能あり

初めて温泉に向かって言う——参りました。

湯畑や温泉街の情緒がなくても、湯の質だけで日本屈指。しかも、水風呂、内風呂、合わせ湯、露天風呂と、わずか半径数十メートルの中で壮大な湯の旅ができる。次元を超え、時空を飛ばす。これが横綱の風格。横綱の中でも史上最高の貴乃花。世界一の温泉と称しても過言ではない。気味が悪いほど気持ちいい。

硫黄の抱擁、サラサラの酸性泉のダブルパンチ。手がふにゃふにゃになっても構わない。草食動物になってもいい。それほどの気持ちよさが全身を包み込む。

水風呂があるおかげで、一気に身体がヒートアップし、覚醒感が爆発する。スーパーサイヤ人に変身したかのよう。合わせ湯は、加温も加水もしない太古の野湯を彷彿とさせる。火傷しそうな熱湯も、水風呂という対極があるからこそ成立する。北斗神拳と南斗聖拳が共存する世界。

雪見の露天風呂に浸かり、ひょっこりひょうたん島のようにぷかぷかと浮かび、時の流れがゆっくりとほどけていく——たゆたえども沈まず。

そして確信する。韓国最強の温泉——釜山・東莱温泉「虚心庁」を超えた。

食事処〜湯の華

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

1時間半、温泉に浸かり、時刻は13時39分。まだ湯めぐりの最初。腹が減っては湯めぐりはできぬ。

「上州地鶏ラーメン」900円。

昔ながらの中華そばのような素朴な味わい。だが、酸性泉にどっぷり浸かったあとの身体には、キリッとした出汁が五感に染み渡る。温泉そのものを飲んでいるかのような錯覚。旨みが際立ち、沁みる一杯。

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

締めは、ラウンジで濃厚バニラソフト(450円)。外国人の店員さんが、驚くほど巻き方が巧い。伊香保温泉近くの道の駅でも感じたが、群馬にはソフトクリーム名人が多い。

味も甘さも濃厚で、酸性泉の強さに負けない力強さ。まさに最高のフィニッシュホールド。1発目から、草津温泉にノックアウト。7年前の自分は一体何を感じていたのか。体質が変わったのか。それとも感性が研ぎ澄まされたのか。

——ただひとつ言えること。

大滝乃湯だけで、草津は日本一の温泉と呼んでしまう。

御座之湯 官能ロマンの温泉

草津三湯〜御座之湯、

湯宿にチェックインし荷物を置いた後、次なる温泉は湯畑の眼前にある「御座之湯」へ。江戸、明治時代には湯畑周辺に「御座之湯、綿の湯、かっけの湯、滝の湯、鷲の湯」という5つの共同湯があった。その中で「御座之湯」を再建したのが、この日帰り温泉。源頼朝が三原野(現在の東吾妻町)に狩りに訪れた際、「御座りになった石」があったことから名付けられたという説もある。「とんとん葺き」の屋根と漆喰の壁が、歴史を感じさせる。

草津三湯〜御座之湯

エントランスは広々としており、入浴料800円を払う。大滝乃湯より300円安い。草津三湯はクレジットカードが使えるのもありがたい。御座之湯は2013年開業で、当時の入浴料は500円だった。

草津三湯〜御座之湯

館内には、石造りの「石之湯」と檜の「木之湯」の2種類の浴槽があり、日替わりで楽しめる。それぞれ「万代鉱源泉」と「湯畑源泉」の2つの湯が注がれている。

初日に選んだのは「石之湯」。檜風呂が好きだが、御座之湯に関しては石風呂派。男らしさがいい。ロベルト・デュランの「石の拳」を彷彿とさせる。

画像引用:御座之湯

「湯畑源泉」も気持ちいいが、特筆すべきは「万代鉱源泉」の泉質。

  • 泉質:酸性・水素-硫酸塩-塩化物塩(硫化水素型)(酸性・低張性・高温泉)
  • 泉温:94.6℃
  • pH値:1.7
  • 成分総計:3.21g

大滝乃湯の煮川源泉と似ているが、pH値が1.7とさらに低く、青森の酸ヶ湯温泉と同じ酸性度を誇る。「硫化水素型」の硫黄泉でありながら遊離硫化水素が0という点。そのため、硫黄の強烈な匂いは感じにくい。また、「鉄」の含有量も少なく匂いのクセが少ない湯である。ただし、成分の総量は煮川源泉の倍近い3.21g。

✔ メタけい酸(528.3mg)→ 100mg以上で美人の湯と呼ばれるが、その5倍

✔ メタほう酸(21.4mg)→ 酸性やアルカリ性の異物が目に入ったとき痛みを和らげる中和作用あり

煮川源泉が男性的な湯とすれば、万代鉱源泉はしなやかで優雅な女性的な湯。

画像引用:御座之湯

大滝乃湯が水風呂から熱湯、合わせ湯など様々な武器を持つ「総合格闘家」なら、 御座之湯は内湯のみで勝負する「ボクサー」。湯質の破壊力では草津随一。一撃の威力はナンバーワン。足を湯に入れた瞬間、ふくよかな女性の肌に抱かれたような抱擁と滑り。肩まで浴すると、味わったことのない官能が襲う。媚薬でも入っているのではないか。肌に絡みつく滑らかさ、ぬるりとした感触、上質な絹のように身体を包む。ただの温泉ではない。「抱擁」という言葉がしっくりくるほど、湯が寄り添ってくる。湯けむりの向こうに若い女性の声が聞こえ、淫らな湯を倍加。バイアグラの湯と名付けてもいい。気持ちいい女性と交わると、すぐに脱力してしまうように、わずかな時間で昇天する。長湯ができないので浴槽から上がって休憩しては浸かる逢瀬を重ねる。この官能の湯力は凄まじく、草津温泉が遊郭街なら、コンビニのATMに走るところ。翌日、檜の風呂にも浴した。やさしさが加わる。石がブラック珈琲なら、檜はカフェ・オ・レ。どちらに浴しても後悔はない。

草津三湯〜御座之湯

最終日は2階にある大広間「湯源之間」でくつろぎ、バスが出るまでの4時間、昼寝や執筆などしてゆっくり過ごした(無料Wi-Fiがあるので助かる)。御座之湯は、官能的な温泉の極致だ。

西の河原露天風呂  星を飲む温泉

西の河原露天風呂 

草津三湯の締めくくりは「西の河原露天風呂」

内湯から大開放の露天風呂へと続く極上のリレー。湯畑からすぐ行ける大滝乃湯や御座之湯とは異なり、西の河原露天風呂は徒歩10分以上。雪道を踏みしめながら進むその道のりは、まさに極真への道。

西の河原露天風呂 

日が沈む前に、露天風呂からの景色を堪能したい。17時前に宿を出ると、まだ空は明るい。しかし街灯が灯り始め、夜の帳がゆっくりと降りてくる。

西の河原露天風呂 

1987年に開業した「西の河原露天風呂」は、西の河原公園の最奥に佇む日本最大級の露天風呂。金曜の17時半からは混浴になるので、木曜に訪れて良かった。

西の河原露天風呂 

山小屋風の受付で入浴料800円を支払い、いざ入浴。クレジットカードが使えるのも便利だ。

西の河原露天風呂 

本来なら西の河原通りを通るのが定番だが、間違えて国道292号線を選んだため、すでに汗だく。早く温泉に飛び込みたい。

画像引用:西の河原露天風呂

「西の河原露天風呂」の源泉は、大滝乃湯や御座之湯と同じ「万代鉱源泉」。実は「西の河原源泉」という別の源泉もあるが、これは一部の湯宿専用。紛らわしいが、ここでは万代鉱源泉が使われている。ちなみに「西の河原源泉」の泉質は、酸性ーアルミニウムー硫酸塩・塩化物温泉(低張性酸性高温泉)。

画像引用:西の河原露天風呂
  • 泉質: 酸性-塩化物・硫酸塩温泉 (低張性・酸性・高温泉)
  • 泉温:96.5℃
  • pH値:1.6
  • 成分総計:3.32g

酸性度を示すpH値は1.6で、草津三湯の中でも最も強烈。成分総計も3.32gと、御座之湯よりも濃厚。圧倒的な広さの露天風呂は、雄大な草津白根山を望むロケーションだけでも圧巻。しかし、それ以上に驚くのは湯の特徴。

脱衣所を出て、湯に足をつけた瞬間の印象は「ぬるい」。しかし、奥へ進むほど熱湯へと変化する。まるでアマゾンの河口からジャングルの奥地へと探検するような感覚。

広大な露天風呂の中には、座って半身浴ができるエリア、岩の上に寝て寝浴できるスポットと、リラックスできるポイントが随所にある。

空を見上げると、真上に浮かぶ半月。

小林一茶が詠んだ、「湯けむりに ふすぼりもせぬ 月の貌」

その句のとおり、湯けむりでも月の貌(かお)はハッキリ見えている。

西の河原露天風呂

夕暮れの「ビフォア・サンセット」から、徐々にトワイライトへ。やがて夜の帳が下りると、星が現れる。露天風呂の湯気が立ち昇り、三途の川を渡るような幻想的な世界へと誘われる。闇が深まり、静寂が支配する頃。ここはまるで、魔のバミューダトライアングル。湯けむりの中で、光が静かに揺れ動く。「夜を盗むトレジャーハンターになった気分」。インディ・ジョーンズのテーマが頭の中で流れる。ここは、星を飲む温泉。湯に顔まで沈めると、映画『地獄の黙示録』のマーティン・シーンがカーツ大佐を暗殺するときの世界観そのもの。最強の湯、ここに極まる。露天風呂として別府の泥湯に迫る破壊力。

笹吟

温泉を後にし、西の河原通りを歩く。向かったのは「笹吟」。

✔ 天ぷら盛り合わせ

✔ ひもかわうどん

✔ 群馬の地酒「草津節」

2780円の豪華ディナー。温泉のあとの酒と料理は、至福のひととき。

草津温泉には、湯そのものが語りかけてくるような力がある。大滝乃湯の階調、御座之湯の抱擁、西の河原露天風呂の解放感。それぞれの湯が、異なる表情で旅人を迎え入れる。湯畑へ戻ると、湯の香が漂い、温泉街の灯りが雪の中にぼんやりと浮かんでいた。

草津三湯〜大滝乃湯、御座之湯、西の河原露天風呂

「湯の香 本舗」で温泉たまごソフトクリーム400円で乾杯。時刻はまだ20時。22時には、宿の湯へと再び身を沈める。明日は共同浴場めぐり。

草津温泉は、温泉の横綱。泉質だけでも日本一。それに加えて、温泉街の風情がこの地を天下無双にしている。景色、空気、映像、音楽、料理。それらとは異なる次元で、人を包み込むもの。それが温泉。温泉とは、大地から湧き上がる生命の恵み。その湯に浸かることは、「大地の応援を受けること。」温泉を出たら、また日常が待っている。しかし、その苦しみすらも祝福に変わる。草津の湯は、生きる力を与えてくれる。温泉とは、旅の終着点であり、また旅の始まりでもある。

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