サウナが苦手だった。小籠包じゃあるまいし、なぜ蒸される?ヘブンである温泉に入ればいいではないか。しかし、原因と解決策がわかった。伊豆の空気が教えてくれた。
静岡県の西の端、伊豆の片隅に「松崎」という日本でいちばん小さな町がある。人口は5000人前後。少子高齢化とともに人口は、減り松崎「町」なのに「日本でいちばん美しい村」の50選に入っている。そこに昨年、吟漁亭(ぎんりょうてい)という一棟貸しの古民家が花を開いた。
2024年11月にはベランダにプライベート・サウナ「TOTONOU」を増設。サイヤ人の宇宙船のようなカプセル。宿代と別料金で朝6時から22時まで利用できる。24時間使えるが、近隣への影響を考慮して利用時間を設けている。露天サウナなので水着着用。忘れてしまった場合でも無料で貸し出してくれるから安心。
使い方は簡単、スイッチをひねるだけ。15分もすれば、立派な蒸篭が出来上がる。高温の日本式ではなく、北欧エストニアの70〜80度の低温サウナ。4人まで入れる。サウナストーンに水をかければ一気に蒸気が充満。これが愉しい。これまでサウナが嫌いだった理由はひとつ。窒息しそうになって外に出ても、内風呂だと湿気むんむん。二重苦が待っている。
吟漁亭の「TOTONOU」はサウナを出た瞬間、松崎の美味しい空気が待っている。松崎の空と大地が歓迎してくれる。コールマンのデッキチェアに腰かけ、泳ぎすぎた雲を眺める。わたしは元気。シャバの空気がうまい。網走刑務所から出た高倉健さんの気分になれる。水風呂、シャワーもあり。
次は満天を見上げる星空サウナを堪能させてもらう。
吟漁亭の魅力
吟漁亭は1日1組限定の一棟貸し古民家。2023年10月5日オープン。20代前半の片山紗織さんが若女将。バックパッカーとして松崎を訪れ、広島県の瀬戸内の景色に似ていたことから移住。大正10年から続く築100年以上の古民家を改築して吟漁亭を始めた。
一晩のお世話になったのは2024年12月6日(金)。商工会の女性部が主催の映画上映会を行うためスタッフとして手伝い。あまりの美しさと落ち着き具合に驚いた。美人なのに壁がない親しみやすさがある。
吟漁亭はオープン1年なので進化し続けている。きっと次に行ったときに内観も変わっている。価格もどんどん変わる。一棟貸しの価格は3人までが33000円、2名は1人16500円。4人以降は1人追加につき8,800円。チェックインは15時~21時、チェックアウトが11時。駐車場にも3台の車が停められ、サウナは別途3,300円。
圧巻は調理器具とキッチン。お父様が銀座で日本料理を経営されているので火力もフライパンや鍋も業務用。
自分が料理の鉄人になった気分を味わえる。
包丁も切れる切れる。グランメゾン東京の木村拓哉になれる。
本格的な料理もスイーツも作れるので、仲間とワイワイ、腕を振るう。
ワイングラスは大ぶりのモンラッシェ型。白、赤、ロゼ、泡なんでもOK。
料理のほかに吟漁亭で体感して欲しいのが薪ストーブ。
自分で薪をくべる愉しさを味わうと、いかに人類にとって火が最大の発明かがわかる。
暖を求めなくても、炎を見ているだけで落ち着く。仕事の会議にもよいが、日常を忘れて本当の日常にどっぷり浸かってほしい。吟漁亭は非日常を求めてくる場所ではなく日常を思い出す場所。
吟漁亭には時計がない。秒針も長針も、心を刺すものがない。テレビもない。音もない。代わりに仲間の声がある。星がある。静かすぎる夜がある。温かすぎる夜がある。都会とは違う過剰がある。一棟貸しだからこそ、人と人の距離が近くなる。人間は「人の間」と書くように、吟漁亭は現代の生活の人間が忘れてしまいがちな人間を思い出させてくれる。