湯遊白書〜そこに温泉があるから

ここは天国かい?いや、温泉だよ。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。2017年11月23日、温泉ソムリエ協会認定「温泉ソムリエ」の資格を取得。本ブログの情報は平成29年8月発行の『温泉ソムリエ テキスト』(著者・遠間和広)に基づいています。

温泉こそ水風呂に入れ!真冬にすすめたい「冷に始まり、冷に終わる」温泉術

温泉こそ水風呂に入れ!真冬にすすめたい「冷に始まり、冷に終わる」温泉術

温泉に来てまで、なぜ冷たい水に入らなければならないのか。

しかも真冬。外は氷点下。せっかく温泉で温まりに来たのだから、水風呂など視界に入れず、熱い湯に肩まで沈みたい。

気持ちはよくわかる。それでも言いたい。

真冬こそ、水風呂に入ってほしい。なぜなら、水風呂そのものが気持ちいいからではない。水風呂を知ると、その次の温泉が、とんでもなく気持ちよくなるからだ。

温泉の天国指数を爆上げする秘密兵器。それが冷水浴である。

冷で始まり、冷で終わる

温泉こそ水風呂に入れ!真冬にすすめたい「冷に始まり、冷に終わる」温泉術

冷たい水に入ると、皮膚の血管は収縮する。温かい湯へ戻れば、今度は血管が拡張する。この温度差を繰り返すのが、いわゆる「温冷交代浴」である。

温冷交代浴(おんれいこうたいよく)とは、温かいお湯と冷たい水を交互に浴びて血管の収縮と拡張を促し、血流の改善や疲労回復を図る入浴法のこと。

血管が広がったり縮んだりするポンプ作用により、血流が良くなり疲労物質が流れやすくなり、温浴でリラックス(副交感神経)、冷浴でシャキッと活性化(交感神経)し、自律神経のバランスを整える。

まず20秒〜1分ほど水風呂につかり、3分ほど温泉で温まる。再び水風呂でキリッと締め、また温泉天国を繰り返す。

いきなり熱い湯に入ると血液がドロドロになり、温泉で得られる物理効果が半減してしまう。温泉ソムリエの間では、水風呂から始めて水風呂で終えるのが定番。

この入浴法は「温泉ソムリエ」のテキストの「正しい入浴法」に正式に記されている。

水風呂から出た直後は、「寒い。なぜこんなことをしているんだ」と思う。

そこから温泉へ戻る。

天国。

もう一度、水風呂へ。

地獄。

そして温泉。

天国。

地獄と天国を往復しているうちに、普通に温泉へ浸かっているだけでは届かなかった気持ちよさが現れる。おすすめは3ラウンド。

冷 → 温 → 冷 → 温 → 冷。

駆けつけ三杯ならぬ、駆けつけ三冷である。

ただし、慣れていない人が真冬にいきなり首まで沈む必要はない。まず足、腰、胸と段階的に入ればいい。冷水浴は根性試しではない。

朝風呂こそ「水風呂」の本領

温泉こそ水風呂に入れ!真冬にすすめたい「冷に始まり、冷に終わる」温泉術

個人的に、水風呂が最も輝くのは朝だと思っている。

半分眠った身体。開いているのか閉じているのかわからない目。布団の続きをそのまま浴場まで運んできたような状態で、水風呂に入る。

一撃で覚醒する。コーヒーどころではない。アラームでもない。

全身が目覚まし時計になる。

『地獄の黙示録』のキルゴア中佐ではないが、「朝のナパーム弾は格別だ」と言いたくなる。

ただし、起床直後は脱水気味でもあり、急な冷水刺激は身体への負荷になる。まず水分をとり、体調を確認し、かけ水から徐々に入ること。心臓・血管系の持病や血圧の問題がある人には、無理に勧めない。

「目覚めの一撃」は、健康だから楽しめる遊びである。

サウナ直後、いきなり水風呂へ飛び込まない

吟漁亭〜至高のサウナ、伊豆松崎の一棟貸し

大きな誤解が日本中に蔓延しているが、サウナで整った直後の水風呂はNGである。

冷水への急な浸水は呼吸を乱し、血圧を上げる。健康な人でも身体には明確な心臓・循環器系の負荷がかかるため、「サウナを出たら0秒で水風呂」を健康法のように考えるのはアウト。

本来は、サウナを出たあと36度前後のぬるま湯につかる「不感温浴」がベスト。36度前後の湯がない場合は「26度前後のシャワーを浴びる」のが良い。

水風呂がおすすめの温泉

日本一の水風呂:満願の湯

秩父温泉 満願の湯 奥長瀞自然峡 日本一の水風呂

画像引用:満願の湯

埼玉県の秩父にある「満願の湯」は、日本一の水風呂を誇る。なんと源泉掛け流し100%。源泉掛け流しとは、浴槽に注がれた温泉を再利用しないもの。加水も加温もしないものを「100%源泉かけ流し」と呼ぶ。

満願の湯の水風呂はは、水温が25℃とジャストミート。おまけに、美人の内風呂と同じく、浸かっているだけでツルツルが実感できる。こんな水風呂は他にない。

足を水風呂につけた瞬間、純度の違いを実感できる。天然水でつくったカキ氷が嫌な匂いなく、頭がキンキンしないのと同じ。人工的な冷却水とは違い、純粋無垢な泉に浴している気分になる。『もののけ姫』の森の精霊になったように思えてくる。

黒湯をそのまま冷やした:稲村ヶ崎温泉

画像引用:稲村ヶ崎温泉

映画『稲村ジェーン』の舞台になった稲村ヶ崎温泉は、水風呂まで源泉掛け流しの黒湯。心地よいトロみがあり、冷たさの中に柔らかさがある。何分でもつかっていられる。温泉と水風呂を交互に行き来し、どんどんその沼にはまっていく。間違いなく、日本一気持ちのいい水風呂である。

水風呂の思い出も登場

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温泉の「源泉かけ流し」とは?天然温泉との違い、加水・加温NGは大きな誤解!

温泉の「源泉かけ流し」とは?「加水・加温NG」は大きな誤解、循環との違い、見分け方まで

温泉宿のホームページで、やたらと神々しく書かれている言葉がある。

「源泉かけ流し」

この5文字があるだけで、「おお、本物だ」とテンションが上がる。蛇口から出てきた温泉を、そのまま湯船へドバドバ。湯船からザバーッとあふれ、使った湯は潔くサヨナラ。確かに、源泉かけ流しにはそんなイメージがある。

しかし、実際は少し複雑だ。

「加温していたら、かけ流しではない?」
「浴槽から湯があふれていたら、絶対かけ流し?」
「塩素臭がしたら循環?」
「循環式は偽物の温泉?」

全部、そう単純ではない。源泉かけ流しとは、温泉界の“無農薬野菜”のようなものだが、刺身のように完全な生でなければ名乗れないわけでもない。

温泉の「鮮度」を理解するために、源泉かけ流しの正体を解剖していこう。

源泉かけ流しとは?

温泉の「源泉かけ流し」とは?「加水・加温NG」は大きな誤解、循環との違い、見分け方まで

まず最も大事なポイント。「源泉かけ流し」「源泉100%かけ流し」は、厳密には同じ意味ではない。日本温泉協会では、次のように整理している。

表示・利用方法 加水 加温 循環・再利用
源泉かけ流し

○

○ 

×
源泉100%かけ流し × × ×

源泉かけ流し」には、温泉法で定められた全国共通の厳密な定義がない。「源泉かけ流し」という言葉については法律上の定義がなく、温泉地や施設、業界団体などによって運用に違いがある。

一般的には、源泉から新しい温泉を浴槽へ流し、使用した湯を循環・再利用せず排出する方式を「源泉かけ流し」と考えるとわかりやすい。

源泉 → 浴槽 → 排出

一度浴槽を出た湯は戻ってこない。回転寿司でいえば、皿を1周させて戻すのではなく、握りたてが次々と出てきて、食べ終わったものはそのまま下げられる。温泉の“一方通行”である。

日本一の湯量〜入之波温泉・山鳩湯【大和最古の温泉】

奈良県で最古の温泉にして、日本一の湧出量を誇る入之波(しおのは)温泉・山鳩湯は、源泉100%かけ流しである。

源泉かけ流しは「加水・加温NG」とは限らない

ここが最もややこしい。「源泉かけ流しなんだから、水を入れたり温めたりしたらダメでしょ」と思いたくなる。

しかし、実際にはそう単純ではない。そもそも「源泉かけ流し」に法律上の統一定義がない。源泉の成分が変わらない程度の加水をすることや、もともと低温の源泉を入浴に適した温度へと加熱することは認められている。

天然温泉との違い

最も混同されるのが、天然温泉と源泉かけ流し。この2つは、そもそも質問していることが違う。天然温泉は、「その湯はどこから来たの?」という話。

源泉かけ流しは、「その湯を浴槽でどう使っているの?」という話である。

言葉 何を示す? ポイント
天然温泉 湯の出自 温泉法上の温泉を使用
人工温泉 湯の作り方 水などに成分を人工的に加える
源泉かけ流し 湯の利用方法 使用後の湯を循環・再利用しない

だから、天然温泉だけど循環式という施設は普通に存在する。

逆に、天然温泉+源泉かけ流しなら、地下から湧いた温泉を使い、浴槽へ新湯を供給しながら、一度使った湯を基本的に再利用せず排出していることになる。

なお、「源泉かけ流し」には温泉法上の全国統一された厳密な定義がないため、温度調整のための加水・加温などの扱いは表示基準によって異なる。

「天然温泉」と「源泉かけ流し」はライバルではない。併用できる言葉である。

源泉かけ流しのメリット・人気の理由

源泉かけ流しのメリット・人気の理由

最大の魅力は鮮度にある。湧いた瞬間がいちばん若い。

循環、ろ過をすると揮発性成分が失われたり、鉄などの成分がろ過装置に付着したりして、温泉成分が変化する可能性がある。源泉かけ流しなら、こうした設備を何周もする前の新しい湯に入りやすい。

硫黄泉なら匂い。炭酸泉なら気泡。鉄泉なら色。炭酸水素塩泉なら肌ざわり。温泉が持つキャラクターを、比較的そのまま味わいやすいのが魅力である。

源泉かけ流し温泉の見分け方

では、源泉かけ流しかどうかは、どう見分ければいいのか。結論から言えば、温泉分析書を見ただけでは判断できない場合が多い。源泉かけ流しか知りたいなら、温泉施設のホームページで確認するとか、書かれていなければ、問い合わせること。

施設によっては、温泉分析書とは別に「温泉利用状況」などが掲示されている。

  • 加水しているか
  • 加温しているか
  • 循環・ろ過しているか
  • 入浴剤を使用しているか
  • 消毒しているか

ただし、ここにも注意が必要。「加水なし」「加温あり」と書いてあるだけでは、源泉かけ流しかどうかまでは判断できない。

源泉から新しい湯をどれくらい投入しているのか、浴槽から出た湯を再利用しているのか、浴槽によって利用方法が違うのかなど、掲示だけではわからないケースもある。

「源泉かけ流し」が明記されている温泉施設もある

たとえば、灘温泉のように掲示そのものに、「源泉かけ流し」と明記されていれば話は早い。

水上温泉・松乃井

一方、水上温泉の施設のように、加水や加温などの利用状況は詳しく書かれていても、「源泉かけ流し」と明記されていないケースもある。実際には源泉かけ流しであっても、掲示だけを見て即断できるとは限らない。

だから、最も確実なのは施設に直接聞くことだ。

「この浴槽は源泉かけ流しですか?」
「浴槽から出た湯は循環させず、そのまま排出していますか?」
「循環との併用ではありませんか?」

源泉かけ流しか知りたいなら、最後はフロントや湯守に聞く。温泉探偵の最終兵器は、分析書ではなく聞き込みである。

「源泉かけ流し=正義、循環=悪者」ではない

日本屈指の名湯・梵の湯

ここは非常に重要である。温泉好きになるほど、「源泉かけ流しこそ正義!」と言いたくなる。気持ちはわかる。しかし、循環式だから偽物というわけではない。

環境省も「循環ろ過している温泉は温泉ではない」と定義しているわけではない。温泉法上の「温泉」は、地中から湧出する水・水蒸気などが一定の温度または成分基準を満たすかどうかで決まる。

実際、日本でも10本の指に入る名湯と言える、埼玉県の秩父川端温泉「梵の湯」は、循環式だ。それでも有名な源泉かけ流し温泉を凌駕する。

利用方法とは別の話なのだ。そして循環式にも明確なメリットがある。

循環式なら大きな浴槽をつくれる

毎分50Lしか湧かない源泉で、100人が入れる巨大露天風呂をすべてかけ流しにするのは難しい。ところが循環式なら、浴槽水を管理して再利用できる。

大浴場。露天風呂。貸切風呂。客室露天。寝湯。壺湯。

「全部つくってくれ」という現代の温泉客の欲望に対応できる。源泉かけ流しだけに限定すれば、温泉施設の規模は湧出量に縛られる。

温泉ソムリエ的にたとえるなら、有機野菜だけを理想としても、世の中のすべての食卓をそれだけで賄うのが難しいのと似ている。品質だけでなく、供給量という現実がある。

循環式は温度を安定させやすい

源泉かけ流しは自然相手。昨日は42℃だったのに今日は44℃。冬はぬるい。夏は熱い。外気温や湧出状態によって浴槽温度が揺れることもある。

それも温泉の面白さだが、「今日は熱すぎて入れません」では大型施設は困る。循環設備を使えば、湯温を一定に保ちやすい。誰が入っても安定して気持ちいい。これは立派なメリットである。

源泉かけ流しにも弱点はある

温泉の「源泉かけ流し」とは?「加水・加温NG」は大きな誤解、循環との違い、見分け方まで

「自然のまま」という言葉は美しい。しかし、自然はこちらの都合を一切聞いてくれない。

湯量が必要

浴槽を満たし続け、さらに排出し続けるため、大量の源泉が必要になる。湧出量の少ない源泉では、大浴場を完全かけ流しにするのは難しい。

温度調整が難しい

源泉が50℃、60℃あれば熱すぎる。逆に30℃ならぬるすぎる。熱交換器を使ったり、加温したり、湯量を調整したり、施設側には職人技が求められる。

掃除も重要

「新しい源泉を流しているから清潔」と考えるのも危険。

温泉成分によるスケール、浴槽のぬめり、人の皮脂や汚れなどは当然発生する。厚生労働省の衛生管理要領でも、浴槽水の換水や浴槽清掃、水質検査などが求められている。

かけ流しは魔法の自動洗浄装置ではない。

源泉かけ流しと循環は「どちらが上」ではない

源泉かけ流しには、温泉そのものを味わう喜びがある。

湯花。匂い。色。析出物。日によって微妙に違う湯温。浴槽から流れ去る大量の湯。

そこには、「いま地球から湧いたものに入っている」という実感がある。

一方、循環式には、巨大な露天風呂、安定した温度、充実した設備、少ない湧出量でも多くの人が温泉を楽しめるという利点がある。

だから、源泉かけ流し=高級、循環式=低級という単純なランキングにはならない。

蕎麦なら十割蕎麦だけが正義ではない。温泉も同じ。泉質を生々しく味わいたい日は源泉かけ流し。大きな露天風呂で長時間のんびりしたい日は循環式。目的によって選べばいい。

 

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「天然温泉」「人工温泉」「源泉かけ流し」の違い〜温泉界のややこしい三角関係、温泉表示のカラクリ

「天然温泉」「人工温泉」「源泉かけ流し」の違い〜温泉界のややこしい三角関係、温泉表示のカラクリ

「天然温泉」と書いてあると、なんとなく強そうである。

山奥からコンコンと湧いた湯を、そのまま浴槽へドバドバ。人間は何も手を加えず、地球から届いた温泉にザブン。

そんなイメージを持ちやすい。

しかし、天然温泉=自然のまま、無加工の温泉ではない。

加水していても天然温泉。加温していても天然温泉。循環ろ過していても、元のお湯が温泉法の基準を満たす源泉なら「天然温泉」である。

では、何をもって「天然」なのか。ポイントは、その湯がどこから来たのか。

「源泉かけ流し」が示しているのは、その湯をどう使っているか。水道水や地下水などに鉱石や成分を加えて温泉らしい湯をつくるのが「人工温泉」である。

温泉界で頻繁に登場する3つの言葉。その違いを、一度きれいに湯分けしてみよう。

天然温泉とは?

天然温泉とは?人工温泉、源泉かけ流しとの違い

天然温泉とは何か。ひと言でまとめるなら、地球がつくった温泉を使っていること。

もう少し、正確に言うと、地中から湧出した「温泉法上の温泉」を利用したものである。日本温泉協会も、「天然温泉」を、温泉法の「温泉」と同様の意味で説明している。人工的につくられた湯と、本物の地下資源としての温泉を区別するために使われてきた言葉だ。

重要なのが、「天然」という言葉と「何も手を加えていない」は別物ということ。

温泉施設で加温していても、温度を下げるために加水していても、循環ろ過していても、元になっている湯が温泉法上の温泉なら、その出自まで人工になるわけではない。

天然温泉とは、料理でいえば「天然魚」に近い。焼いたから養殖魚になるわけではない。煮たから天然でなくなるわけでもない。どこで生まれたかと、その後どう調理したかは別の話。自然がつくった素材を、人間がどう料理しているかまで含めて温泉なのである。

つまり、最も「人工の手が入っていない天然温泉」に近いのは、自然湧出した源泉にその場で入る「野湯」ということになる。

温泉法では「25℃以上」なら温泉(天然温泉)

条件 温泉になる基準
温度 源泉で25℃以上
成分 法律で定める19種類の物質のうち1つ以上が基準値を満たす

では、法律上の「温泉」とは何なのか。

1.源泉温度が25℃以上

2.定められた19種類の物質のうち、どれか1つでも基準値以上含む

この2つのどちらかを満たして入れば、それを温泉(天然温泉)としている。

たとえば源泉温度が18℃しかなくても、メタけい酸が50mg/kg以上あるなど、温泉法で定められた成分基準を満たしていれば立派な温泉である。

逆に25℃以上なら、成分が薄くても温泉法上は温泉になり得る。

「天然温泉」という言葉はいつ生まれた?

「天然温泉」は温泉法にある正式な泉質名ではない。この表示が広く知られるきっかけになったのが、日本温泉協会である。

1976年(昭和51年)、日本温泉協会は、人工温泉などと温泉法上の温泉を区別する目的で「天然温泉表示制度」を策定し、「天然温泉表示マーク」を制定した。

しかし、ここに少し問題があった。

「天然温泉」と大きく書かれていれば、利用者はどう思うだろう。「地球から湧いたまま、そのまま浴槽に入っているんだ!」と思っても不思議ではない。

ところが実際には、天然温泉でも加水・加温・循環ろ過などをしている場合がある。「天然」という言葉が持つ無加工感と、実際の浴槽との間にギャップが生まれた。

2003年、公正取引委員会は温泉表示について実態調査を行い、「天然温泉」という表示は、単なる「温泉」という表現よりも、消費者に自然度が高い印象を与える強調的な表示だと指摘した。そこで温泉表示は、「天然かどうか」だけでなく、浴槽までの工程も見せる方向へ進んでいった。

天然温泉と人工温泉の違い

天然温泉とは?人工温泉、源泉かけ流しとの違い

では、「人工温泉」とは何なのか。一般的には、水道水や地下水などに、天然鉱石やミネラル、温泉由来の成分、入浴剤などを加え、温泉に近い浴感を人工的につくったものをいう。代表的なのが、鉱石を通してミネラルを溶け込ませた湯や、温泉成分を配合した浴槽など。比較すると分かりやすい。

比較 天然温泉 人工温泉
元になる水 温泉法の基準を満たす地下資源 水道水・井戸水などが中心
成分 地中で自然に溶け込む 鉱石・薬剤などを後から加える
土地との関係 地質によって個性が変わる 場所を選ばずつくれる
成分の安定性 日によって変化することもある 一定に管理しやすい
温泉法上の温泉 ○ 原則×

人工温泉の長所は、場所を選ばないこと。東京のビルでも北海道のホテルでも、同じ設備を使えば似た成分構成の湯をつくれる。

天然温泉が「その土地でしか造れない地酒」なら、人工温泉はレシピを再現できるクラフトドリンクのようなものだ。

人工温泉=偽物ではない

ここも誤解されやすい。人工温泉だから価値がないわけではない。温度や成分を一定に保ちやすく、大都市や温泉資源のない土地でも浴用施設をつくれる。

また、使用する入浴剤などが医薬部外品として承認されたものであれば、認められた範囲で効能を表示できる場合もある。

ただし、温泉法の基準を満たしていない湯を、あたかも天然の温泉法上の温泉であるかのように表示することはできない。商品やサービスを実際より著しく優良に見せる表示は、景品表示法でも禁止されている。

大切なのは、天然か人工かではなく、何を使った湯なのかを正しく表示することなのである。

天然温泉と源泉かけ流しの違い

温泉の「源泉かけ流し」とは?「加水・加温NG」は大きな誤解、循環との違い、見分け方まで

そして最も混同されるのが、天然温泉と源泉かけ流し。この2つは、そもそも質問していることが違う。天然温泉は、「その湯はどこから来たの?」という話。

源泉かけ流しは、「その湯を浴槽でどう使っているの?」という話である。

言葉 何を示す? ポイント
天然温泉 湯の出自 温泉法上の温泉を使用
人工温泉 湯の作り方 水などに成分を人工的に加える
源泉かけ流し 湯の利用方法 使用後の湯を循環・再利用しない

だから、天然温泉だけど循環式という施設は普通に存在する。

逆に、天然温泉+源泉かけ流しなら、地下から湧いた温泉を使い、浴槽へ新湯を供給しながら、一度使った湯を基本的に再利用せず排出していることになる。

なお、「源泉かけ流し」には温泉法上の全国統一された厳密な定義がないため、温度調整のための加水・加温などの扱いは表示基準によって異なる。

「天然温泉」と「源泉かけ流し」はライバルではない。併用できる言葉である。

天然温泉だから「上」とは限らない

天然温泉。人工温泉。源泉かけ流し。循環式。

温泉はそこまで単純ではない。むしろ、かなり複雑な存在だ。

天然温泉でも、源泉温度が高すぎれば加水が必要になる。低ければ加温する。人工温泉より天然温泉のほうが気持ちいとは限らない。

だから、四字熟語だけでは温泉の価値はわからない。迷わず飛び込め、飛び込めばわかるさ。それが温泉である。

 

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「美人の湯」「美肌の湯」の正体〜地球がつくった美容液、肌を磨く「三大美人泉質」の科学

「美人の湯」「美肌の湯」の正体〜地球がつくった美容液、肌を磨く「三大美人泉質」の科学

「美人の湯」「美肌の湯」と聞くと、少し怪しい。

湯に浸かっただけで美人になれるなら、美容液もエステもいらない。もちろん、そんな魔法の温泉はない。けれど、湯上がりに自分の腕を触って、

「え、こんなにツルツルだった?」と二度見する温泉は、本当にある。

その正体は、古い角質や皮脂を落とし、肌にうるおいを残し、皮膚を清潔に保つ湯。

泉質によって得意技が違い、その働きから全国の温泉が「美人の湯」「美肌の湯」と呼ばれている。

美人の湯・美肌の湯とは?三大美人泉質

温泉の泉質の成分・効能ランキング〜泉質を制する者は温泉を制す

「美人の湯」「美肌の湯」は、温泉法で決められた正式な泉質名ではない。

温泉の成分やpH、実際の肌ざわりなどから使われている愛称である。その中でも、美肌系の代表格として覚えておきたいのが、「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」「硫黄泉」の3つ。

  • 炭酸水素塩泉=落とす
  • 硫酸塩泉=整えて守る
  • 硫黄泉=清潔にする

美人の湯とは“顔を変える湯”ではなく、肌のコンディションを整える湯である。

炭酸水素塩泉:つるすべの湯

炭酸水素塩泉(重曹泉)"つるすべの湯”の正体〜美肌の最短ルート

美容担当のエースが炭酸水素塩泉。旧名は「重曹泉」

掃除や料理でおなじみの重曹=炭酸水素ナトリウムを多く含むタイプが代表的で、温泉界きっての“つるすべメーカー”である。

最大の武器はクレンジング力。炭酸水素塩泉、とくにアルカリ性の湯は、皮脂や古い角質をやわらかくして落としやすくする。環境省も炭酸水素塩泉について「皮膚の角質を軟化する作用」があると説明している。

だから入った瞬間から、肌がぬるっ、つるっ。

くすみそのものを治療するわけではないが、余分な皮脂や角質が落ちることで、湯上がりの肌がすっきり滑らかに感じられる。

言うなれば、地球が勝手につくった巨大なクレンジング風呂である。

梵の湯(埼玉)

『梵の湯』〜関東屈指の重曹泉、秩父川端温泉

この系統の破壊力を体感するなら、秩父川端温泉「梵の湯」に行くべし。

「関東一の重曹泉」を掲げるだけあり、つるつるというより“つるつるレボリューション”。湯にフェザータッチしただけで指先が滑り、美人の湯を頭ではなく、指先で理解できる一湯である。

ただし、洗浄力が高いということは、肌を守る皮脂膜まで落としやすいということ。入浴中はツルツルでも、湯上がりは乾燥しやすい。

クレンジングの後に化粧水をつけるように、炭酸水素塩泉は保湿までがワンセットと覚えておきたい。

硫酸塩泉:肌を守る「再生の湯」

体への効能―「脳卒中の湯」と呼ばれる理由

炭酸水素塩泉が“磨く湯”なら、硫酸塩泉(しょうさんえんせん)は“整える湯”である。

古くから「傷の湯」と呼ばれ、環境省の泉質別適応症でも、きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症などが挙げられている。

さらに、肌へ水分を運び、表面に皮膜をつくることで、しっとりした肌につながると説明されている。

浴感は、さらり。きゅっ。そして、湯上がりにじわじわ良さが来る。

美容でいえば、ピーリングよりスキンケア。炭酸水素塩泉が「磨く美容」なら、硫酸塩泉は「守る美容」である。

伊香保温泉(群馬)

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硫酸塩泉の代表格が伊香保温泉の「黄金の湯」。

泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉。硫酸塩泉を軸に、複数の泉質のキャラクターを併せ持つ。

鉄分による茶褐色の湯は見た目こそ力強いが、浴感はやさしい。さらに、保湿成分の「メタけい酸」が177mg/kgほど含まれる源泉もある。

落とす、守る、温める。伊香保は、一つの浴槽に美容部・保健部・暖房部が同居しているような、温泉界のオールラウンダーである。

硫黄泉:美肌を司る湯

硫黄泉とは?クセになる卵の匂いの正体と“薬湯”の頂点

三大美人泉質の中で、最もキャラが濃いのが硫黄泉。浴室に入る前から、匂いで自己紹介してくる。

「私、温泉です」

そんな主張の強さは泉質界ナンバーワン。硫化水素型では独特の“ゆで卵”のような匂いがあり、酸性の硫黄泉では肌にピリッとした刺激を感じることもある。

硫黄泉は皮膚を清潔に保つ方向の働きが特徴で、環境省の資料でも尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症などが浴用適応症に挙げられている。

古い角質をやわらげ、肌表面を整えやすい一方、酸性の強い湯は刺激も強い。美肌のアクセルを踏み込む代わりに、扱いにもコツがいる。

温泉界の魔王であり、薬師であり、美容番長。それが硫黄泉である。

万座温泉(群馬)

万座温泉・万座高原ホテル

東の横綱は万座温泉。標高約1,800m。硫黄含有量は全国屈指。万座高原ホテルの源泉はpH2前後の強酸性で、硫黄泉に硫酸塩泉、塩化物泉の性格まで重なる。

さらに、メタけい酸も200mg/kg前後と豊富。硫黄の刺激。硫酸塩のしっとり感。塩化物の保温感。もはや単なる「美肌の湯」では収まらない。

肌も鼻も脳も、全部まとめて温泉に連れていかれる。湯に浸かるというより、温泉に食われる。それが万座である。

その他の「美人の湯」「美肌の湯」

「美人の湯」「美肌の湯」は、三大美人泉質だけを見ればいいわけではない。温泉分析書を見つけたら、ツルツル感に重要な「炭酸イオン」、保湿成分の「メタけい酸」にも注目したい。

高尾山温泉(東京)

 

“極楽指数”MAX!高尾山のラスボス『極楽湯』

高尾山の麓にある「京王高尾温泉 極楽湯」は、登山客や観光客を癒すために2015年に誕生した天然温泉施設。高尾山口駅直結という抜群のアクセス。登山後はもちろん、朝風呂や夜風呂など日常の合間にも立ち寄れる利便性がある。営業時間も朝8時から夜23時までと長く、クライマーや観光客に幅広い楽しみ方を提供している。

泉質は「アルカリ性単純温泉(pH9.9)」で、関東でも屈指のツルツル感を誇る。炭酸イオンも多く含まれており、肌をなめらかに整える美肌の湯として人気。湧出温度は26.2℃と低温だが加温され、無色透明のやさしい湯で万人に向く。

館内では「露天炭酸石張り風呂」や「檜風呂」「替わり風呂」など多彩な浴槽を用意。ジャスミンやハチミツ檸檬など趣向を凝らした替わり風呂は目でも楽しめ、檜風呂ではマイクロバブルが木の香りと調和し極上のリラックス体験を与える。

「美人の湯」「美肌の湯」は入浴方法も大切

せっかくの名湯も、入り方を間違えれば肌にはオーバーワークになる。

美容は泉質選びで半分、入り方で半分である。

最初は「かけ湯」

いきなりドボンは避け、最初はかけ湯。足元から少しずつ湯をかけ、温度と泉質の刺激に体を慣らしていく。

共同浴場では衛生のため汗や汚れを落としてから浴槽に入るのが基本だが、ナイロンタオルで全身をゴシゴシ磨き上げる必要はない。炭酸水素塩泉やアルカリ性の湯には、もともと角質をやわらげる作用がある。

入浴前からこちらが全力でピーリングしてしまえば、温泉と人間による角質へのダブル攻撃になる。汚れは落とす。しかし、肌まで削らない。

タオルではなく手で洗う

温泉おすすめの入浴方法〜種類、温度、体の洗い方、入浴後まで

美肌系の温泉では、肌はすでに“仕事中”。とくに炭酸水素塩泉、硫黄泉、アルカリ性の湯では、タオルで強くこするより、手でやさしく洗うくらいでいい。

温泉に来てまで肌と格闘する必要はない。肌は「磨く」ものではなく、温泉に「磨いてもらう」。それくらいがちょうどいい。

「あがり湯」はしない

温泉から出たあと、シャワーで全身をザーッと流したくなる。しかし、刺激の少ない泉質なら、肌に付着した温泉成分をすぐ洗い流さず、タオルで水分を軽く拭き取るのが基本。

日本温泉協会も、入浴後は身体についた温泉成分を温水で洗い流さず、水分を拭き取って30分ほど安静にすることを勧めている。

ただし、酸性泉や硫黄泉など刺激の強い温泉、肌が敏感な人、塩素消毒などが気になる場合は、ぬるま湯で洗い流したほうがよい。

そして最後は保湿。とくに“落とす力”の強い炭酸水素塩泉やアルカリ性泉では、湯上がりの化粧水や乳液まで含めて一つの入浴と考えたい。

泉質のキャラクターを知り、自分の肌に合った入り方をする。その瞬間、温泉はただの「気持ちいい風呂」から、地球がつくった巨大なスキンケアルームに変わる。

 

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この漫画は、2025年3月9日に発売したKindle本『温泉クライマー』の一部を抜粋し、漫画化しています。漫画では描ききれなかった温泉の魅力、山旅の空気、湯に浸かった瞬間の感動を、原作でじっくり味わえます。あわせてご覧ください。

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この漫画は、2025年3月9日に発売したKindle本『温泉クライマー』の一部を漫画したものです。漫画では描ききれなかった温泉の魅力、山旅の空気、湯に浸かった瞬間の感動を、原作でじっくり味わえます。原作にしかない温泉コラムも必読です。あわせてご覧ください。

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最後まで、ご覧いただき、ありがとうございます。この漫画は、2025年3月9日に発売したKindle本『温泉クライマー』の一部を漫画したものです。漫画では描ききれなかった温泉の魅力、山旅の空気、湯に浸かった瞬間の感動を、原作でじっくり味わえます。登山と温泉を通して最も伝えたかったことも、原作のあとがきに記しています。ぜひ、原作本も合わせてご覧ください。

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温泉の色(にごり湯)の魅惑〜地球の履歴書、色に隠された大地のメッセージ

温泉の色(にごり湯)の魅惑〜地球の履歴書、色に隠された大地のメッセージ

日本酒に「にごり酒」があるように、温泉にもにごり湯がある。

無色透明の湯は美しい。澄み切った湯に身を沈めると、清らかになった気がする。

だが、乳白色、茶褐色、エメラルドグリーン、コバルトブルー、黒。そうした色をまとった温泉に出会うと、話は変わる。湯船の前で、こちらのテンションが一段上がる。

「これは、ただの湯ではない」

そう思わせる説得力が、にごり湯にはある。温泉の色は、地球からのメッセージである。白く濁る。赤く染まる。青く光る。黒く沈む。

それぞれの色には、成分があり、時間があり、酸化があり、地下で起きた化学反応のドラマがある。にごり湯は、温泉が自分の履歴書を色で見せてくれているようなものだ。

にごり湯とは?

温泉の色(にごり湯)の魅惑〜地球の履歴書、色に隠された大地のメッセージ

にごり湯とは、温泉成分が空気に触れたり、温度や圧力の変化によって化学反応を起こし、不透明に見える温泉のこと。

湧き出した瞬間から濁っている湯もあるが、本来の温泉は無色透明である。

それが地上に出て、空気に触れ、酸化し、成分が変化する。あるいは、湯の中の成分が結晶化したり沈殿したりする。その結果、乳白色、茶褐色、緑色、青色、黒色といった色が生まれる。

にごり湯は温泉のメイクではない。温泉そのものが起こした化学反応の結果である。

地下では透明だった湯が、空気に触れて急にドラマを始める。

「ここからが本番です」

そう言わんばかりに、湯が色をまといはじめる。

にごり湯は「生きている温泉」

温泉の魅力〜泉質を制する者は温泉を制す

にごり湯は、生きている温泉とも言われる。温泉は、地下から湧いた瞬間に完成しているわけではない。湧き出したあとも、空気と触れ、温度が変わり、圧力が変わり、成分が反応し続けている。温泉が生きて、動いて、反応している証拠である。

にごり湯は、湯船の中で静かに発酵しているようなものだ。日本酒のにごり酒に米の生命力があるように、にごり湯には地球の生命力がある。

湯の花とは

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にごり湯を語るうえで欠かせないのが、湯の花である。読み方は「ゆのはな」、別名、湯華とも呼ばれる。

湯の花とは、温泉成分が湯の中で結晶化したり、沈殿したりしたもの。白、黄色、茶色、赤褐色、黒など、温泉の成分によってさまざまな色になる。

浴槽の中にふわふわ漂っていたり、底に沈んでいたり、浴槽の縁にびっしり付着していたりする。初めて見る人は、こう思うかもしれない。

「え、これゴミ?」

違う。ゴミではない。汚れでもない。湯の花は、天然温泉の証拠である。

温泉地のお土産として売られている湯の花は、天然の入浴剤として人気がある。つまり、浴槽に浮いているそれは、地球が作った粉末スープみたいなものだ。

ラーメンで言えば、底に沈んだ旨み。日本酒で言えば、瓶の底に残る澱。温泉で言えば、湯の花。にごり湯の魅力は、この「成分が見える感じ」にある。

にごり湯は成分が視覚化されている。温泉が「私はこういう者です」と、色と沈殿物で名刺を出してくるのである。

にごり湯の種類

色 主な成分・特徴の目安
エメラルドグリーン 硫黄泉、硫化水素イオン、塩化ナトリウムの影響
乳白色 ガス性の硫黄を含む硫黄泉
茶褐色・赤褐色 鉄分の酸化、含鉄泉、塩化物泉
コバルトブルー メタけい酸、ケイ素成分
黒・コーヒー色 フミン酸、有機物、炭酸水素塩泉、塩化物泉
モール泉 太古の植物・有機物由来の成分

にごり湯とひと言で言っても、色はさまざまだ。

乳白色の湯はフジタ。黒湯はローリング・ストーンズ。茶褐色の湯は鉄の彫刻。エメラルドグリーンは鉱物の宝石箱。コバルトブルーは地球が描いた青。

湯船の色が違えば、含まれる成分も違う。そこから期待される肌ざわりや入り心地も変わってくる。

温泉は、浸かれる美術館である。

エメラルドグリーン

丘の上ヒュッテ

丘の上ヒュッテ

まずは、エメラルドグリーン。温泉好きなら、湯船を見た瞬間に少し声が出る色である。

透明感のある緑。光を含んだ宝石のような湯。山の中で出会うと、地球が秘密の絵の具を溶かしたように見える。

エメラルドグリーンの湯は、草津温泉の湯畑が有名であるように、硫黄泉に多い。特に、硫化水素イオンが主成分となる「硫黄型」の湯で見られることがある。

また、塩化ナトリウムの影響で色づく場合もある。

硫黄泉といえば、温泉らしい香りが特徴だ。いわゆる、ゆで卵のような匂い。温泉に来た感が最も強い香りのひとつである。

エメラルドグリーンの湯は、見た目がすでにご褒美だ。湯船に入る前から、こちらの脳が勝手に効能を感じ始める。

緑の湯に出会うと、湯そのものが風景になる。浴槽がただの浴槽ではなく、山の中に置かれた宝石箱に見えてくる。

にごり湯の中でも、エメラルドグリーンはファンタジー色が強い。RPGなら、回復の泉である。

乳白色

乳白色の温泉

乳白色。温泉の色として、最も「温泉らしい」と感じる人も多いだろう。白く濁った湯は、見るだけで旅館のポスターになる。

乳白色の湯は、ガス性の硫黄を含む硫黄泉に多い。湧き出した湯が空気に触れ、硫黄成分が変化することで白く濁る。

この白さには独特の魅力がある。雪のようでもあり、牛乳のようでもあり、絹のようでもある。湯船に身を沈めると、自分の体が見えなくなる。それだけで、少し非日常に入った気分になる。

勝手に呼んでいる名前がある。レオナール・フジタの温泉。乳白色の湯には、フジタの白がある。あの、しっとりとした乳白色。肌の輪郭をやさしく包み、光をやわらかく反射する白。

温泉なのに、どこか絵画的なのだ。白濁した湯に浸かっていると、湯そのものがカンヴァスに見えてくる。自分はそこに描かれた人物のようでもあり、逆に湯に消されていく輪郭のようでもある。乳白色のにごり湯は、温泉界の白い絵画である。

茶褐色(赤)

天狗温泉 浅間山荘

天狗温泉 浅間山荘

茶褐色や赤褐色の湯を見ると、温泉好きはだいたい嬉しくなる。なぜなら、見た目が強いからだ。

透明な湯が優等生なら、茶褐色の湯は強烈な個性派。湯船がすでに事件現場のような迫力を放っている。この色の正体は、主に鉄である。

鉄が錆びると赤茶色になる。鉄を塩水につけると錆びて変色するのと同じように、温泉に含まれる鉄分が空気に触れて酸化し、茶褐色や赤褐色に変化する。

つまり、茶色い湯は、地球の錆び色である。鉄分を含む温泉は、泉質としては含鉄泉に見られる。ただし、規定値に満たない塩化物泉でも、鉄分が塩の影響で酸化して茶褐色になることがある。

鉄分が少ないと緑がかり、少し増えると黄色っぽくなり、さらに多くなると赤や茶褐色へと変化する。温泉の鉄分がグラデーションで自己主張しているようだ。

長野県の天狗温泉 浅間山荘のような赤い湯は、まさに鉄の温泉。湯船の色を見た瞬間、「これは効きそう」と思ってしまう。

科学的な理屈より先に、見た目が勝つ。茶褐色の湯には、そういう力がある。

鉄の湯は、温泉界の赤ワインである。香りも、色も、余韻も濃い。

コバルトブルー

道の駅 大滝温泉「遊湯館」

道の駅 大滝温泉「遊湯館」

コバルトブルーの温泉に出会うと、少し現実感がなくなる。

本当に自然の色なのか。誰かが絵の具を垂らしたのではないか。そんな疑いを持ちたくなるほど、青い湯は美しい。

コバルトブルーの湯は、メタけい酸、つまりケイ素由来の成分が多いと青く見えやすい。メタけい酸は、美肌成分として知られる。温泉好きの間では「美人の湯」と呼ばれることもある。

肌の保湿に関わる成分として注目されることが多く、温泉分析書でメタけい酸の数値を見る人もいる。青い湯に浸かるというのは、体験としてかなり強い。

茶褐色の湯が大地なら、コバルトブルーは空である。黒い湯が深海なら、コバルトブルーは南国のラグーンである。

温泉なのに、少し海の気配がある。山の中にあるのに、南の島を思わせる。

コバルトブルーのにごり湯は、温泉界の錯覚である。「ここはどこだ」と思わせてくれる湯だ。

黒(コーヒー色)

蒲田温泉

蒲田温泉

湯船が黒い。自分の手足が見えない。入る前から、何かに試されている感じがする。

泥湯でない場合、黒い湯やコーヒー色の湯は、有機物の分解が原因になることが多い。

代表的なのが、フミン酸である。

フミン酸とは、太古の植物や海藻などが堆積し、長い年月をかけて分解されてできた有機物。それが温泉に溶け出すことで、湯が黒やコーヒー色に見える。

泉質としては、炭酸水素塩泉に多い。また、海に近い地域では塩化物泉の特徴をあわせ持つこともある。

東京の蒲田温泉のような黒湯は、その代表格である。蒲田温泉は、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉の特徴を持つ湯。つまり、炭酸水素塩泉と塩化物泉の両方の個性を感じられる。

黒い湯は、温泉界のブラックコーヒーである。甘くない。媚びない。深い。ザ・ローリング・ストーンズ風に言えば、完全にPaint it Black。

湯船に入ると、自分の体が黒い水に沈んでいく。それは少し怖く、少し楽しい。透明な湯が自分を見せてくれる湯なら、黒い湯は自分を隠してくれる湯である。疲れた日に入ると、いろいろなものを黒い湯が引き受けてくれるような気がする。

にごり湯は、温泉が色で語る履歴書

温泉の色(にごり湯)の魅惑〜地球の履歴書、色に隠された大地のメッセージ

にごり湯とは、温泉成分が空気に触れたり、温度や圧力の変化によって反応し、不透明に見える温泉のこと。

湧き出したときは無色透明でも、酸化や湯の花の発生によって、乳白色、茶褐色、エメラルドグリーン、コバルトブルー、黒などに変化する。

湯の花は、温泉成分が結晶化したり沈殿したりしたもの。ゴミではなく、天然温泉の証拠であり、地球がつくった入浴剤である。

温泉の色は、ただの見た目ではない。成分、時間、酸化、地層、植物、鉱物。さまざまなものが溶け込んだ結果である。

にごり湯に出会ったら、こう思ってほしい。

この色は、地球がつけた色だ。

透明な湯もいい。だが、にごり湯には、にごり湯だけの物語がある。

温泉は黙って湧いている。しかし、その色はかなり雄弁である。

 

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炭酸泉とは?“しゅわしゅわ詐欺”に遭わない「高濃度炭酸泉」のカラクリ

炭酸泉とは?“しゅわしゅわ詐欺”に遭わない「高濃度炭酸泉」のカラクリ

温泉好きにとって、意外とややこしい言葉がある。

炭酸泉。

響きはかわいい。しゅわしゅわ。ラムネ。泡。血行促進。ぬるいのにポカポカ。

しかし、実際に入ってみると、こう思うことがある。

「あれ?ぜんぜん泡がつかないんですけど」

浴槽の看板には、堂々と「高濃度炭酸泉」とある。こちらは全身を炭酸まみれにする気で入っている。なのに、肌には気泡がほとんどつかない。

これは詐欺なのか。それとも、こちらの肌が炭酸に嫌われているのか。高濃度炭酸泉は、看板より“炭酸が生きているか”を見よう。

炭酸泉とは?

要注意の「高濃度炭酸泉」

炭酸泉とは、ざっくり言えば、炭酸ガス(二酸化炭素)が溶け込んだお湯のこと。

温泉分析書で見る場合は、項目名としては「炭酸ガス」ではなく、遊離二酸化炭素、または遊離炭酸と書かれる。

温泉の成分

温泉分析書

温泉法では、温泉水1kg中に遊離炭酸、つまり遊離二酸化炭素が250mg以上含まれていれば、炭酸泉になる。

ただし、ここで注意したい。温泉施設でよく見る「炭酸泉」は、必ずしも天然温泉の炭酸泉とは限らない。基本的には、スーパー銭湯などにある「炭酸泉」は、水道水に炭酸ガスを溶かしてつくられているものが多い。また、天然であっても良いとは限らないのが「炭酸泉」の難しいところである。

注意が必要な「高濃度炭酸泉」

注意が必要な「高濃度炭酸泉」

温泉分析書の世界では、遊離二酸化炭素が1,000mg/kg以上あると、「二酸化炭素泉」になる。二酸化炭素は皮膚から吸収されると、血管を広げて血流が良くなり、冷え性の改善や血圧の低下の効能があることから「心臓の湯」と呼ばれる。

「炭酸泉」に関しては、遊離二酸化炭素が1,000mg/kg以上あると「高濃度炭酸泉」と表記する場合が多い。

ここで問題は、看板に「高濃度炭酸泉」と書いてあっても、実際の浴槽で炭酸がしっかり残っているとは限らないことだ。炭酸泉は、名乗るだけなら簡単。しかし、浴槽で炭酸を生かすのは難しい。

炭酸泉の大前提として、二酸化炭素は水に溶けるが、同時に抜けやすいデリケートな湯である。

泡が少ない原因の可能性

  • 加温されすぎている(高温でCO₂が揮発)
  • pH値が高くアルカリ性で炭酸が逃げている
  • 浴槽が大きすぎて、炭酸が均等に回っていない
  • 循環や消泡処理で弱くなっている

炭酸泉で重要な3つの要素

原因 何が起きているか
湯温が高い 高温でCO₂が抜けやすい
pHが高い 炭酸らしい泡の存在感が弱まりやすい
浴槽が広すぎる 炭酸濃度が均一になりにくい

「高濃度炭酸泉」を謳っている温泉に入るときは、「泉温」「pH値」「浴槽」の3つに注目してほしい。

1. 湯温はぬるめか
30〜37℃くらいなら炭酸が残りやすい。40℃以上なら要注意。

2. pHは弱酸性〜中性か
温泉分析書がある場合は、pH値を見る。弱酸性や中性なら炭酸泉と相性がいい。

3. 浴槽は広すぎないか
広すぎる浴槽では、炭酸が均一に回りにくい。

泉温:炭酸泉は「ぬるめ」が基本

炭酸泉とは?“しゅわしゅわ詐欺”に遭わない「高濃度炭酸泉」のカラクリ

まず大事なのが温度。炭酸ガスは高温になるほど逃げやすい。そのため、炭酸泉に向いているのは、だいたい30〜37℃くらいのぬるめの湯である。

この温度帯なら、炭酸が湯にとどまりやすく、肌に細かい泡もつきやすい。逆に、40℃を超えるような熱めの湯では、炭酸はどんどん抜けやすくなる。

炭酸泉で大事なのは、「熱くて気持ちいい」ではなく、「ぬるいのに温まる」である。

温泉好きは、つい熱い湯に強さを感じがちだ。

熱い湯は効く。熱い湯は本物。熱い湯こそ温泉。

しかし、炭酸泉はその逆をいく。高濃度炭酸泉と書いてあるのに、湯が熱い。その時点で少し疑っていい。

「お前、その炭酸、まだ生きているか?」と心の中で聞いてみたい。

pH値:アルカリ性の湯は注意

炭酸泉とは?“しゅわしゅわ詐欺”に遭わない「高濃度炭酸泉」のカラクリ

次に見るべきはpH値。pH値とは、ざっくり言えば温泉が酸性なのか、中性なのか、アルカリ性なのかを示す数字。かなり簡単に言えば、炭酸の姿はpHによって変わる。

弱酸性から中性くらいでは、炭酸らしさを感じやすい。一方、pHが高くなってアルカリ性に傾くと、遊離した二酸化炭素としての存在感は弱まりやすい。

温泉分析書を見るなら、「弱酸性」「中性」あたりは炭酸泉との相性がよい目安になる。

逆に、pHが7.5以上のアルカリ性へ寄っていく場合は、炭酸の泡つきが弱く感じられることがある。

もちろん、pHだけで炭酸泉の良し悪しが決まるわけではない。温度、炭酸の注入量、浴槽の構造、循環の仕方も関係する。ただ、温泉分析書を読むなら、遊離二酸化炭素だけでなく、pH値も一緒に見たい。炭酸泉は、数字同士のチームプレーである。

浴槽:広すぎると炭酸は弱くなりやすい

炭酸泉とは?“しゅわしゅわ詐欺”に遭わない「高濃度炭酸泉」のカラクリ

最後に見落としがちなのが、浴槽の広さ。高濃度炭酸泉は、浴槽に炭酸ガスを溶け込ませて濃度を保つ必要がある。ところが浴槽が広すぎると、炭酸が均等に回りにくい。

注入口の近くは泡がある。でも、離れた場所ではほとんど泡がつかない。

こういうことが起きる。

また、浴槽が広いほど、空気に触れる面積も大きくなる。人が動けば湯も揺れる。循環すれば炭酸も抜ける。泡は、思っているよりずっと逃げ足が速い。

炭酸泉は、大浴場のスターに見えて、実は小劇場向きである。狭めの浴槽で、ぬるめの湯温で、静かに炭酸を保つ。これが理想に近い。

大きな浴槽に「高濃度炭酸泉」と書かれていても、泡つきが弱いことがあるのは、このためだ。

おすすめの炭酸泉

灘温泉|神戸にある“シャンパーニュの湯”

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神戸市灘区にある灘温泉は、天然の炭酸感を楽しめる名湯である。

ひと言でいえば、夏のための温泉。源泉温度は約35℃。炭酸が湯にとどまりやすい、まさに理想的なぬる湯である。

灘温泉の面白いところは、温泉分析書上の遊離炭酸が55.6mg/kgと、決して高濃度炭酸泉ではないところ。それなのに、内湯のぬる湯に身を沈めると、数分で全身に細かな気泡がまとわりつく。この泡つきの理由は、主に3つ。

  • 源泉温度35℃。
  • pH7.0の中性。
  • 大人6人ほどでいっぱいになる小さな浴槽。

ぬるい。中性。浴槽が小さい。

つまり、炭酸が生き残る条件がそろっている。肌につく泡は、シルクのように細かい。ウィルキンソン炭酸の中に沈んでいるような感覚で、ぬる湯なのに体の奥からじんわり温まってくる。

ここは、まさにシャンパーニュの湯。炭酸泉の繊細さと気品を味わうなら、灘温泉は外せない。

戸田温泉 彩香の湯|都会に潜む“蘇生カプセル系”炭酸泉

戸田温泉 彩香の湯〜雨月物語の温泉

埼玉県戸田市にある戸田温泉 彩香の湯は、都会の中で天然温泉と炭酸の気持ちよさを楽しめる温浴施設である。

新宿から電車で30分ほど。戸田駅から歩けば、地下1500メートルから湧き出す琥珀色の天然温泉が待っている。

メインの源泉も素晴らしいが、炭酸泉好きにおすすめしたいのは、浴場奥にある檜風呂の天然炭酸泉である。

檜風呂というだけでも贅沢なのに、そこへ炭酸。湯にじっと浸かっていると、無数の気泡が肌にまとわりついてくる。その感覚は、まるでサイヤ人の蘇生カプセル。

熱さで攻めるのではなく、炭酸の泡でじわじわ回復させてくる。都会の温浴施設にありながら、体感はかなり本格派である。

彩香の湯は、源泉そのものが高張性で成分の濃い湯。そこに炭酸泉のやさしい刺激が加わることで、体を内側から起こしてくれるような感覚がある。濃い天然温泉と炭酸の組み合わせを味わいたい人には、かなりおすすめしたい一湯である。

楽天地スパ 錦糸町|駅前で味わう“パチパチ炭酸泉”

楽天地スパ 錦糸町〜天然温泉・男性専用スパ&サウナ

東京・錦糸町駅前にある楽天地スパ 錦糸町は、男性専用のスパ&サウナ施設である。

地下650メートルから湧き出る天然温泉もあるが、炭酸泉目線で注目したいのは、高濃度人工炭酸泉。

天然の二酸化炭素泉ではなく、炭酸ガスを溶け込ませた人工炭酸泉である。だからこそ、「高濃度炭酸泉」のカラクリを体感するにはわかりやすい。

湯はぬるめ。入ってすぐに派手なインパクトがあるというより、5分ほどじっとしていると、肌に細かな気泡がまとわりついてくる。

シュワシュワ、パチパチ。ミニストップのハロハロに入っているパチパチキャンディのような感覚である。ぬるいのに、だんだん体がゆるむ。熱さではなく、炭酸で血流を促してくるタイプの湯だ。

ペロッと飲泉するものではないが、感覚としてはスパークリングワインに近い。普通の湯ではなく、泡をまとった湯に入っているという楽しさがある。

天然温泉のあとに、水風呂を挟み、最後に高濃度炭酸泉。この流れはかなり強い。

駅前で、手ぶらで、しっかり炭酸を味わえる。楽天地スパ 錦糸町は、都会型炭酸泉の優等生である。

 

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温泉の湧出量とは〜“鮮度と勢い”を見抜く数字の読み方

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温泉の浸透圧とは?薄い湯・同じ湯・濃い湯の“効き方”を見極めろ

温泉の浸透圧とは?薄い湯・同じ湯・濃い湯の“効き方”を見極めろ

温泉分析書を見ていると、こんな表記に出会うことがある。

カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉 弱アルカリ性・低張性・高温泉

前半の「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉」は泉質。「弱アルカリ性」はpH値。「高温泉」は泉温。では、真ん中にひっそり座っている低張性とは何者なのか。

これが今回の主役、浸透圧である。

読み方は「しんとうあつ」。名前だけ聞くと、理科室の黒板にチョークで書かれていそうな言葉だが、温泉好きにとってはかなり大事な情報である。

なぜなら浸透圧を見ると、その温泉が、薄くてやさしい湯なのか、体液に近いバランス型なのか、濃くてガツンとくる湯なのかが見えてくるからだ。

温泉の浸透圧は、いわば湯の濃さメーターである。

薄味の出汁か。ちょうどいい味噌汁か。煮詰めた豚骨スープか。

温泉分析書の「低張性・等張性・高張性」は、その湯の濃さと刺激の強さを教えてくれるサインなのだ。

温泉の浸透圧とは?

温泉の浸透圧とは?

温泉の浸透圧とは、ざっくり言えば、温泉に溶けている成分の濃さが、人間の体液と比べてどれくらいかを示すもの。温泉分析書では、泉質名のあとにカッコ書きで表示されることが多い。温泉の浸透圧は、大きく分けて3つ。

分類 体液との比較 ざっくりした特徴
低張性 体液より薄い やさしい・水分が入りやすい
等張性 体液とほぼ同じ バランス型・負担が少ない
高張性 体液より濃い 濃い・刺激が強い・成分感がある

つまり、温泉は「成分の種類」だけでなく、成分の濃さでもキャラクターが変わる。温泉の浸透圧は、溶存物質の量によって分類される。

分類 目安 特徴
低張性 溶存物質 8g/kg未満 水分が皮膚から浸透しやすい
等張性 溶存物質 8〜10g/kg 成分の出入りが少なく負担が少ない
高張性 溶存物質 10g/kg以上 温泉成分が作用しやすいが湯あたりしやすい
 

ここで大事なのは、濃ければ濃いほどエライわけではないということ。濃い温泉はたしかにインパクトがある。入った瞬間に「おっ、これは効きそうだ」と思わせる迫力がある。しかし、濃い湯は体にも肌にも刺激が強い。強い酒がうまいからといって、ジョッキで飲むと大変なことになるのと同じだ。温泉も、濃い湯ほど入り方に作法がいる。

低張性温泉〜薄くてやさしい“癒やし系の湯”

低張性温泉〜薄くてやさしい“癒やし系の湯”

低張性温泉とは、人間の体液よりも温泉成分の濃度が薄い温泉のこと。ざっくり言えば、薄くてやさしい湯である。水分が皮膚を通して体内に浸透しやすく、肌への刺激が少ない。長湯しても体に負担がかかりにくく、湯あたりしにくい温泉として知られている。入浴後に指先が少ししわしわになることがある。あれは、水分が皮膚に入り込んでいるサインのひとつ。

低張性温泉は、温泉界の「やさしい麦茶」みたいな存在だ。濃厚パンチはないが、安心して長く付き合える。

低張性温泉のメリット

低張性温泉の代表、草津温泉

低張性温泉の魅力は、とにかく、やさしさにある。肌への刺激が少ないため、肌が弱い人、ご年配の人、赤ちゃんでも比較的入りやすい。もちろん体調や泉質にもよるが、温泉の中では身体にやさしいタイプといえる。

また、成分が濃すぎないため、湯治や長湯にも向いている。じっくり浸かって、ゆっくり体を温めたい人には相性がいい。

日本の名湯にも低張性は多い。草津温泉、別府温泉、万座温泉、伊香保温泉、伊豆温泉、熱海温泉、箱根温泉など、よく知られた温泉地にも低張性の湯は多く見られる。

低張性温泉は肌がふやけやすい

温泉の魅力とは?情熱と冷静で癒される極上のひととき

低張性の湯は、体液より薄いため、水分が皮膚に入りやすい。そのため、肌がふやけやすい。長く入っていると指先がしわしわになるのは、そのわかりやすいサインだ。

ただし、これは悪いことではない。水分が入りやすく、刺激が少ないということでもある。低張性温泉は、しっとり、じんわり、やさしく包み込むタイプ。湯船の中で説教してくるタイプではない。

疲れているとき、体力が落ちているとき。ぼーっとしたいとき。そういう日は、低張性の湯がありがたい。

高張性温泉〜濃くてガツンとくる“鬼コーチの湯”

高張性温泉〜濃くてガツンとくる“鬼コーチの湯”

高張性温泉とは、人間の体液よりも温泉成分の濃度が高い温泉のこと。目安としては、溶存物質が10g/kg以上。つまり、かなり濃い湯である。

高張性温泉は、温泉成分が皮膚から体に作用しやすい。塩分やミネラルなどの成分がしっかりしているため、入浴後もポカポカ感が続きやすい。

特に塩分濃度が高い湯では、皮膚の表面に成分の膜ができ、湯冷めしにくくなる。そのため、冷え性、肩こり、神経痛などに良いとされることもある。

いわば、高張性温泉は温泉界の濃厚スープ。「今日はガツンと効かせたい」という日に頼りたくなるタイプだ。

ただし、注意点もある。高張性温泉は濃いぶん、体力を消耗しやすい。長湯すると湯あたりを起こしやすく、脱水気味になることもある。温泉成分が濃いということは、体の水分が温泉側に引っ張られやすいということでもある。

有名どころでは有馬温泉がある。他にも、横須賀温泉、大手町温泉、戸田温泉、鶴巻温泉など、高張性の名湯は各地に存在する。

こうした温泉は、入った瞬間の存在感が強い。「ただのお湯ではありません」と、湯船のほうから名刺を出してくる感じがある。

ただし、濃い湯は短時間で楽しむのが基本。ラーメンで言えば、替え玉を3回するタイプではなく、濃厚な一杯をじっくり味わうタイプである。

高張性温泉では水分補給が必須

高張性温泉では水分補給が必須

高張性温泉に入るときは、水分補給がとても大切。入浴前後にしっかり水を飲む。これは高張性泉を楽しむための基本装備である。

高張性の湯は成分が濃いため、体の水分が外へ引っ張られやすい。さらに温熱効果で汗もかく。体の中では水分がどんどん減りやすい。

高張性泉では、入浴前に水。入浴後にも水。

上がり湯をしたほうがいい場合もある

温泉の浸透圧とは?薄い湯・同じ湯・濃い湯の“効き方”を見極めろ

高張性温泉から上がるときは、上がり湯もポイントになる。上がり湯とは、湯船から出るときにシャワーなどで体を軽く洗い流すこと。

温泉好きの中には、「温泉成分を流すなんてもったいない」と思う人もいる。

その気持ちはわかる。成分をまとって帰りたい。湯の余韻を肌に残したい。

しかし、高張性のように濃度が高い温泉では、成分が肌に残りすぎることで刺激や乾燥につながることがある。

特に肌が敏感な人は、軽くシャワーで流したほうが安心だ。濃い湯を楽しむには、引き際も大事。温泉成分との別れ際までスマートでありたい。

まとめ:浸透圧は、温泉の“濃さと刺激”を読む数字

まとめ:浸透圧は、温泉の“濃さと刺激”を読む数字

温泉の浸透圧とは、温泉成分の濃度が人間の体液と比べてどれくらいかを示すもの。温泉分析書では、低張性・等張性・高張性として表示される。

低張性は、体液より薄い湯。水分が皮膚に浸透しやすく、刺激が少なく、長湯や湯治に向いている。

等張性は、体液とほぼ同じ濃度の湯。成分の出入りが少なく、身体への負担が少ないバランス型。

高張性は、体液より濃い湯。温泉成分が体に作用しやすく、保温感や効能感が強い一方で、湯あたりや脱水に注意が必要。

温泉分析書で「低張性」「等張性」「高張性」を見つけたら、こう思ってほしい。

この湯は、薄味か。ちょうどいいか。それとも濃厚こってりか。

温泉は、ただ温かい水ではない。成分の濃さによって、入り方も、効き方も、付き合い方も変わる。浸透圧は、温泉の濃さを読むための合図である。湯船に入る前にそこを見れば、その温泉との距離感が少しうまくなる。

 

 

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