
温泉に来てまで、なぜ冷たい水に入らなければならないのか。
しかも真冬。外は氷点下。せっかく温泉で温まりに来たのだから、水風呂など視界に入れず、熱い湯に肩まで沈みたい。
気持ちはよくわかる。それでも言いたい。
真冬こそ、水風呂に入ってほしい。なぜなら、水風呂そのものが気持ちいいからではない。水風呂を知ると、その次の温泉が、とんでもなく気持ちよくなるからだ。
温泉の天国指数を爆上げする秘密兵器。それが冷水浴である。
冷で始まり、冷で終わる

冷たい水に入ると、皮膚の血管は収縮する。温かい湯へ戻れば、今度は血管が拡張する。この温度差を繰り返すのが、いわゆる「温冷交代浴」である。
温冷交代浴(おんれいこうたいよく)とは、温かいお湯と冷たい水を交互に浴びて血管の収縮と拡張を促し、血流の改善や疲労回復を図る入浴法のこと。
血管が広がったり縮んだりするポンプ作用により、血流が良くなり疲労物質が流れやすくなり、温浴でリラックス(副交感神経)、冷浴でシャキッと活性化(交感神経)し、自律神経のバランスを整える。
まず20秒〜1分ほど水風呂につかり、3分ほど温泉で温まる。再び水風呂でキリッと締め、また温泉天国を繰り返す。
いきなり熱い湯に入ると血液がドロドロになり、温泉で得られる物理効果が半減してしまう。温泉ソムリエの間では、水風呂から始めて水風呂で終えるのが定番。
この入浴法は「温泉ソムリエ」のテキストの「正しい入浴法」に正式に記されている。
水風呂から出た直後は、「寒い。なぜこんなことをしているんだ」と思う。
そこから温泉へ戻る。
天国。
もう一度、水風呂へ。
地獄。
そして温泉。
天国。
地獄と天国を往復しているうちに、普通に温泉へ浸かっているだけでは届かなかった気持ちよさが現れる。おすすめは3ラウンド。
冷 → 温 → 冷 → 温 → 冷。
駆けつけ三杯ならぬ、駆けつけ三冷である。
ただし、慣れていない人が真冬にいきなり首まで沈む必要はない。まず足、腰、胸と段階的に入ればいい。冷水浴は根性試しではない。
朝風呂こそ「水風呂」の本領

個人的に、水風呂が最も輝くのは朝だと思っている。
半分眠った身体。開いているのか閉じているのかわからない目。布団の続きをそのまま浴場まで運んできたような状態で、水風呂に入る。
一撃で覚醒する。コーヒーどころではない。アラームでもない。
全身が目覚まし時計になる。
『地獄の黙示録』のキルゴア中佐ではないが、「朝のナパーム弾は格別だ」と言いたくなる。
ただし、起床直後は脱水気味でもあり、急な冷水刺激は身体への負荷になる。まず水分をとり、体調を確認し、かけ水から徐々に入ること。心臓・血管系の持病や血圧の問題がある人には、無理に勧めない。
「目覚めの一撃」は、健康だから楽しめる遊びである。
サウナ直後、いきなり水風呂へ飛び込まない

大きな誤解が日本中に蔓延しているが、サウナで整った直後の水風呂はNGである。
冷水への急な浸水は呼吸を乱し、血圧を上げる。健康な人でも身体には明確な心臓・循環器系の負荷がかかるため、「サウナを出たら0秒で水風呂」を健康法のように考えるのはアウト。
本来は、サウナを出たあと36度前後のぬるま湯につかる「不感温浴」がベスト。36度前後の湯がない場合は「26度前後のシャワーを浴びる」のが良い。
水風呂がおすすめの温泉
日本一の水風呂:満願の湯

埼玉県の秩父にある「満願の湯」は、日本一の水風呂を誇る。なんと源泉掛け流し100%。源泉掛け流しとは、浴槽に注がれた温泉を再利用しないもの。加水も加温もしないものを「100%源泉かけ流し」と呼ぶ。
満願の湯の水風呂はは、水温が25℃とジャストミート。おまけに、美人の内風呂と同じく、浸かっているだけでツルツルが実感できる。こんな水風呂は他にない。
足を水風呂につけた瞬間、純度の違いを実感できる。天然水でつくったカキ氷が嫌な匂いなく、頭がキンキンしないのと同じ。人工的な冷却水とは違い、純粋無垢な泉に浴している気分になる。『もののけ姫』の森の精霊になったように思えてくる。
黒湯をそのまま冷やした:稲村ヶ崎温泉

映画『稲村ジェーン』の舞台になった稲村ヶ崎温泉は、水風呂まで源泉掛け流しの黒湯。心地よいトロみがあり、冷たさの中に柔らかさがある。何分でもつかっていられる。温泉と水風呂を交互に行き来し、どんどんその沼にはまっていく。間違いなく、日本一気持ちのいい水風呂である。
水風呂の思い出も登場

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