
山の麓にはクライマーを癒す極楽がある。「武甲温泉」「満願の湯」と並んで、”秩父三名湯”と呼びたい『梵の湯』。狂気じみた名前からして只者ではない。
梵の湯の歴史
秩父は名峰が屏風のように並ぶ聖域。富士山、男体山、武尊山、赤城山、武甲山などクライマー憧れの綺羅星たち。名山の麓には名湯があり、御多分に洩れず、秩父も名湯がポコポコ湧き立つ温泉天国。その秩父市に2500坪の広大な敷地を持つのが『梵の湯』。開業は2007年。元々は釣り堀を造る予定が温泉を群然に掘り当ててしまったという。
梵の湯の外観

流れる荒川のせせらぎ、山々の木々が放つ香り。都会の喧騒から遠く離れた場所に来たことを実感させる。「梵」とは仏教で「きよらか」「木に吹く風の音」という意味があるらしい。旅人を迎える武家屋敷のような白い壁に白の暖簾。提灯には縦書きの筆で「秩父川端温泉 梵の湯」。その平凡な字に風格はないが、哲学を感じる。旅人を迎え入れるでも遠ざけるでもなく、ニュートラルな佇まい。旅の始まりと終わりを同時に感じさせる。
梵の湯の泉質
梵の湯の魅力は泉質。今どき泉質だけで勝負できる珍しい湯。
キャッチコピーは「関東一の重曹泉」
正確にはナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉 (低張性・アルカリ性・冷鉱泉)だが、面倒くさいので「重曹泉」とする。重曹泉は旧分類の泉質名であり現在は「炭酸水素塩泉」。無色透明で皮膚の脂肪を分解して乳化してくれる。肌をなめらかにする典型的な美人の湯であり、梵の湯に関しては、湯にフェザータッチしただけでツルツルすべすべが全身に走る。源泉温度が「冷鉱泉」なので、ぬるめの湯。

ph値(水素イオン濃度)が8.5で石鹸と同じアルカリ性の湯。油分を落として角質層を柔らかくし、つるつる&美白にする効果がある。つるつる度に重要なナトリウムイオン と炭酸水素イオンも多く、炭酸イオンが30mg以上の温泉はツルツル感が強くなるが、梵の湯は90mg以上。さらに浸透圧も「低張性」の分類であり、水分が肌に浸透しやすく優しい温泉なのだ。何から何まで、つるつる無双。悪魔的なツルツル。
奥多摩にはpH値10.1を持つその名も『つるつる温泉』があるが、比較にならない。それほど『梵の湯』のつるつるは群を抜き切っている。つるつるレボリューション。
日本には、つるつる度だけなら上には上がいる。しかし、雪山から生還し、先輩と浸かることで、梵の湯は透明な宇宙に変わる。
名湯・秘湯・奇湯は全国に数多くあれど、梵の湯は「魔湯」と呼称するのがふさわしい。迷わず浸かれ、浸かれば分かるさ。悪魔的なツルツルに取り憑かれる。ただし、湯あたりするので長湯は禁物。柵ごしに荒川の清流が望める露天風呂、サウナは全無視でよい。兎にも角にも内風呂。身体はタオルでゴシゴシ洗わず手洗い。このスベスベを消してはいけない。旅は、移動や距離を指すのではない。未知との出会いや新たな発見があれば、それは旅。先輩は温泉という一湯の旅路を教えてくれる。
梵の湯の食事処

温泉から上がったあとは食事処でスジャータのソフトクリーム。柚子、チョコレートなどあるが、雪山カラーの北海道ミルク一択。少し強い甘さが登山の疲れをギュッと抱擁してくれる。
編集後記

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2024年12月25日のクリスマス、登山の先輩がプレミア12を追いかけた『燃月』を出版したお祝いに梵の湯に連れて行ってくれた。温度帯は最高。熱すぎずヌルすぎず。しかし内風呂のツルツルが消えていた。飲泉すると無味だが、少し消毒液のような匂いがする。温泉は生きもの。湯にも好不調の波があるのか。
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