湯遊白書〜そこに温泉があるから

ここは天国かい?いや、温泉だよ。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。2017年11月23日、温泉ソムリエ協会認定「温泉ソムリエ」の資格を取得。本ブログの情報は平成29年8月発行の『温泉ソムリエ テキスト』(著者・遠間和広)に基づいています。

「天然温泉」「人工温泉」「源泉かけ流し」の違い〜温泉界のややこしい三角関係、温泉表示のカラクリ

「天然温泉」「人工温泉」「源泉かけ流し」の違い〜温泉界のややこしい三角関係、温泉表示のカラクリ

「天然温泉」と書いてあると、なんとなく強そうである。

山奥からコンコンと湧いた湯を、そのまま浴槽へドバドバ。人間は何も手を加えず、地球から届いた温泉にザブン。

そんなイメージを持ちやすい。

しかし、天然温泉=自然のまま、無加工の温泉ではない。

加水していても天然温泉。加温していても天然温泉。循環ろ過していても、元のお湯が温泉法の基準を満たす源泉なら「天然温泉」である。

では、何をもって「天然」なのか。ポイントは、その湯がどこから来たのか。

「源泉かけ流し」が示しているのは、その湯をどう使っているか。水道水や地下水などに鉱石や成分を加えて温泉らしい湯をつくるのが「人工温泉」である。

温泉界で頻繁に登場する3つの言葉。その違いを、一度きれいに湯分けしてみよう。

天然温泉とは?

天然温泉とは?人工温泉、源泉かけ流しとの違い

天然温泉とは何か。ひと言でまとめるなら、地球がつくった温泉を使っていること。

もう少し、正確に言うと、地中から湧出した「温泉法上の温泉」を利用したものである。日本温泉協会も、「天然温泉」を、温泉法の「温泉」と同様の意味で説明している。人工的につくられた湯と、本物の地下資源としての温泉を区別するために使われてきた言葉だ。

重要なのが、「天然」という言葉と「何も手を加えていない」は別物ということ。

温泉施設で加温していても、温度を下げるために加水していても、循環ろ過していても、元になっている湯が温泉法上の温泉なら、その出自まで人工になるわけではない。

天然温泉とは、料理でいえば「天然魚」に近い。焼いたから養殖魚になるわけではない。煮たから天然でなくなるわけでもない。どこで生まれたかと、その後どう調理したかは別の話。自然がつくった素材を、人間がどう料理しているかまで含めて温泉なのである。

つまり、最も「人工の手が入っていない天然温泉」に近いのは、自然湧出した源泉にその場で入る「野湯」ということになる。

温泉法では「25℃以上」なら温泉(天然温泉)

条件 温泉になる基準
温度 源泉で25℃以上
成分 法律で定める19種類の物質のうち1つ以上が基準値を満たす

では、法律上の「温泉」とは何なのか。

1.源泉温度が25℃以上

2.定められた19種類の物質のうち、どれか1つでも基準値以上含む

この2つのどちらかを満たして入れば、それを温泉(天然温泉)としている。

たとえば源泉温度が18℃しかなくても、メタけい酸が50mg/kg以上あるなど、温泉法で定められた成分基準を満たしていれば立派な温泉である。

逆に25℃以上なら、成分が薄くても温泉法上は温泉になり得る。

「天然温泉」という言葉はいつ生まれた?

「天然温泉」は温泉法にある正式な泉質名ではない。この表示が広く知られるきっかけになったのが、日本温泉協会である。

1976年(昭和51年)、日本温泉協会は、人工温泉などと温泉法上の温泉を区別する目的で「天然温泉表示制度」を策定し、「天然温泉表示マーク」を制定した。

しかし、ここに少し問題があった。

「天然温泉」と大きく書かれていれば、利用者はどう思うだろう。「地球から湧いたまま、そのまま浴槽に入っているんだ!」と思っても不思議ではない。

ところが実際には、天然温泉でも加水・加温・循環ろ過などをしている場合がある。「天然」という言葉が持つ無加工感と、実際の浴槽との間にギャップが生まれた。

2003年、公正取引委員会は温泉表示について実態調査を行い、「天然温泉」という表示は、単なる「温泉」という表現よりも、消費者に自然度が高い印象を与える強調的な表示だと指摘した。そこで温泉表示は、「天然かどうか」だけでなく、浴槽までの工程も見せる方向へ進んでいった。

天然温泉と人工温泉の違い

天然温泉とは?人工温泉、源泉かけ流しとの違い

では、「人工温泉」とは何なのか。一般的には、水道水や地下水などに、天然鉱石やミネラル、温泉由来の成分、入浴剤などを加え、温泉に近い浴感を人工的につくったものをいう。代表的なのが、鉱石を通してミネラルを溶け込ませた湯や、温泉成分を配合した浴槽など。比較すると分かりやすい。

比較 天然温泉 人工温泉
元になる水 温泉法の基準を満たす地下資源 水道水・井戸水などが中心
成分 地中で自然に溶け込む 鉱石・薬剤などを後から加える
土地との関係 地質によって個性が変わる 場所を選ばずつくれる
成分の安定性 日によって変化することもある 一定に管理しやすい
温泉法上の温泉 原則×

人工温泉の長所は、場所を選ばないこと。東京のビルでも北海道のホテルでも、同じ設備を使えば似た成分構成の湯をつくれる。

天然温泉が「その土地でしか造れない地酒」なら、人工温泉はレシピを再現できるクラフトドリンクのようなものだ。

人工温泉=偽物ではない

ここも誤解されやすい。人工温泉だから価値がないわけではない。温度や成分を一定に保ちやすく、大都市や温泉資源のない土地でも浴用施設をつくれる。

また、使用する入浴剤などが医薬部外品として承認されたものであれば、認められた範囲で効能を表示できる場合もある。

ただし、温泉法の基準を満たしていない湯を、あたかも天然の温泉法上の温泉であるかのように表示することはできない。商品やサービスを実際より著しく優良に見せる表示は、景品表示法でも禁止されている。

大切なのは、天然か人工かではなく、何を使った湯なのかを正しく表示することなのである。

天然温泉と源泉かけ流しの違い

温泉の「源泉かけ流し」とは?「加水・加温NG」は大きな誤解、循環との違い、見分け方まで

そして最も混同されるのが、天然温泉と源泉かけ流し。この2つは、そもそも質問していることが違う。天然温泉は、「その湯はどこから来たの?」という話。

源泉かけ流しは、「その湯を浴槽でどう使っているの?」という話である。

言葉 何を示す? ポイント
天然温泉 湯の出自 温泉法上の温泉を使用
人工温泉 湯の作り方 水などに成分を人工的に加える
源泉かけ流し 湯の利用方法 使用後の湯を循環・再利用しない

だから、天然温泉だけど循環式という施設は普通に存在する。

逆に、天然温泉+源泉かけ流しなら、地下から湧いた温泉を使い、浴槽へ新湯を供給しながら、一度使った湯を基本的に再利用せず排出していることになる。

なお、「源泉かけ流し」には温泉法上の全国統一された厳密な定義がないため、温度調整のための加水・加温などの扱いは表示基準によって異なる。

「天然温泉」と「源泉かけ流し」はライバルではない。併用できる言葉である。

天然温泉だから「上」とは限らない

天然温泉。人工温泉。源泉かけ流し。循環式。

温泉はそこまで単純ではない。むしろ、かなり複雑な存在だ。

天然温泉でも、源泉温度が高すぎれば加水が必要になる。低ければ加温する。人工温泉より天然温泉のほうが気持ちいとは限らない。

だから、四字熟語だけでは温泉の価値はわからない。迷わず飛び込め、飛び込めばわかるさ。それが温泉である。

 

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