温泉は日本人にとって古くから親しまれてきた癒しの文化。温泉地の豊かな自然や歴史、泉質による効能、心を癒す空間など、多くの魅力がある。日本人735名に「温泉の魅力とは?」というアンケートを実施したら、「のんびり・リラックスできる」「疲れが取れる・ストレス解消できる」という回答が圧倒的多数を占めた。そこで、温泉の癒し効果や魅力を深掘りし、多くの人が温泉に惹かれる理由を温泉ソムリエが解き明かす。
◇ 温熱効果
◇ 水圧効果
◇ 浮力効果
◇ 転地効果
温泉がもたらす癒しと健康効果
効果名 | 説明 |
---|---|
温熱効果 |
温かさで血行が促進され、新陳代謝が高まる 疲労物質の排出を助け、免疫力を向上させる 温度によってリラックス効果や覚醒効果がある |
水圧効果 |
水圧が血液を循環し、むくみ改善やデトックス 内臓が適度に圧迫されマッサージ効果がある |
浮力効果 |
体重が軽減され、筋肉や関節の負担が減る 筋肉が緩みリラックス状態を生み出す |
転地効果 |
非日常の環境が五感を刺激し、ストレスを軽減 自律神経を整え、リフレッシュ効果が得られる |
温泉で得られる物理効果は主に4つ。知っておくと、さらに入浴が気持ち良くなる。
温熱効果
お湯の温かさによって体が温まるのが「温熱効果」。または血行促進の効果。体が温まることで血管が広がり新陳代謝が高まり、体内の不要物を押し出してくれる。例えば疲労物質「乳酸」を排出し、疲れを和らげる効果が得られる。逆に体温が1℃下がると人間の免疫力は30%落ちるので、体を温めるのは大切な意味がある。
泉温による温熱効果の違い
- 42℃以上(高温泉):交感神経を刺激し、目が覚めるような効果
- 35℃〜42℃(適温の温泉):副交感神経を刺激し、リラックス効果
湯の温度によっても温熱効果は変わってくる。42℃以上の熱い湯「高温泉」は血管を収縮し、興奮の自律神経「交感神経」を刺激し、目が覚めた状態になる。
35℃以上42未満の「温泉」の温度帯は血管を拡張し、リラックスの自律神経「副交感神経」を刺激し、気持ちを鎮め、落ち着いた気分にしてくれる。
42℃以上の熱い湯高温泉は「身体の外側から温める温熱効果」があり、少しぬるめの「温泉」は「身体の内側から温める温熱効果」があると覚えておこう。
水圧効果
温泉の湯に浸かることで身体に適度な圧力がかかり、内臓がマッサージされる。肩まで浸かると500kg以上の水圧がかかり、これを温泉の水圧効果と呼ぶ。人間の脚には血液の1/3が集まるが、地上では重力によって血液が心臓に集まりにくい。温泉の水圧効果によって血管が細くなり、血液が心臓に押し上げられるポンプアップ効果が生まれる。その結果、静脈の循環が良くなりデトックス効果(むくみ改善、冷え性や肩こりの緩和)が生まれる。逆に長く浸かりすぎると心臓への負担が大きくなるので、適度な入浴を心がけたい。
温泉は利尿効果が高まる
温熱効果と水圧効果が合わさることで「ナトリウム利尿ホルモン」が刺激され、老廃物の排泄につながる。
浮力効果
湯に浸かることで浮力が生まれ、体の重さは1/10に感じられる。これを温泉の「浮力効果」と呼ぶ。体が軽くなることで筋肉が緩み、脳波がリラックスした状態の「α波」になる。
転地効果
普段と環境が変わることで五感が刺激され、精神的にも肉体的にも良い影響を与えることを「転地効果」と呼ぶ。呼吸や脳内のホルモンを調整する内分泌系や自律神経を刺激し、精神疲労や体調不良に良い効果を発揮する。
転地効果は5〜6日で活発になり、1ヶ月を過ぎると薄れる。本来であれば一泊や二泊ではなく、五、六泊することで転地効果を得られる。
リラックス効果は40度以下がベスト
「リラックス効果」を期待するなら40度以下の湯「微温浴」がいい。体温より少し高く、精神や神経の興奮を抑える鎮静作用がある温度帯。副交感神経を刺激し、脈拍数を落とし血圧を下げてくれる。
入浴後すぐに帰らない(リラックス効果が消滅)
温泉のリラックス効果は湯につかっている間がいちばんと思っている人が多いが、実は入浴後15〜30分後が最も心がリラックスする。このゴールデンタイムにバタバタ帰る準備をし、慌てて帰宅するとリラックス効果が台無し。入浴後はソフトクリームを食べながら、ほっこりするのが一番。湯上がりのひとときこそ、体と心を落ち着けてほしい。
リラックス効果を最大化する過ごし方
- 温泉上がりに30分はのんびりする
- 温泉街を歩いてクールダウンする
- ソフトクリームを食べて余韻を楽しむ
温泉の魅力を倍増させる楽しみ方
- 自分に合う泉質を見つける
- 温泉の入浴の方法を知る
- 温泉の歴史を堪能する
- 四季折々の温泉を味わう
温泉の4つの効果を理解した上で、さらに温泉の魅力を倍増させる楽しみ方が3つある。
自分に合う泉質を見つける
温泉は「十湯十色」と呼ばれるように、10種類の泉質があり、特色や相性は様々。
【一覧表】温泉の泉質
泉質 | 特徴 | 代表的な温泉地 |
---|---|---|
単純温泉 | 刺激が少なく優しい | 下呂温泉、由布院温泉 |
塩化物泉 | 「温まりの湯」 | 有馬温泉、登別温泉 |
炭酸水素塩泉 | 「美肌の湯」 | 乳頭温泉、白浜温泉 |
硫酸塩泉 | 傷の治癒に良い | 四万温泉、蔵王温泉 |
二酸化炭素泉 | 血行促進効果 | 十津川温泉 |
含鉄泉 | 鉄分を含み赤褐色の湯 | 鉄輪温泉 |
酸性泉 | 殺菌効果が高い | 草津温泉 |
含よう素泉 | 体質改善の湯 | 白子温泉 |
硫黄泉 | 特有の匂いと美肌効果 | 別府温泉、万座温泉 |
放射能泉 | 万病に効くとされる | 三朝温泉 |
「泉質を制する者は温泉を制する」という格言(勝手に作りました)があるように、泉質の違いや、自分にピッタリな泉質を知っておくと、温泉の楽しさがバズりまくる。
温泉の入浴方法を知る
温泉の入浴方法は主に3つある。
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全身浴:むくみ改善、デトックス効果
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半身浴:血液の循環が活発になる
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寝浴(浮遊浴):絶大なリラックス効果
また、「入浴前と入浴後に水分を摂る」「入浴後すぐに帰らない(リラックス効果が消滅)」など、温泉の入浴方法を知っておくと温泉がさらに好きになる。沼にハマる。
温泉の歴史を堪能する
温泉は水や湯だけでなく、流れる「時間」と対話するもの。その温泉がいつ生まれ、どんな人々を魅了してきたのか、歴史や文化を知ることで、悠久のひとときを味方につけられる。
四季折々の温泉を味わう
温泉の魅力は、湯船につかりながら季節ごとの景色を楽しめること。季節ごとに異なる風情を堪能すると、温泉の楽しみが爆発する。
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春:桜や新緑に囲まれた温泉
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夏:川や滝の音を聞きながら涼をとる
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秋:紅葉に彩られた温泉
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冬:雪見風呂で幻想的な雰囲気を味わう
それぞれの四季が、別世界のような美しさを奏でてくれる。同じ温泉でも、季節を変えて何度も行ってみよう。
温泉の効果に関するQ&A
熱い温泉で体がかゆくなる理由
熱い湯につかると、"かゆみ物質"であるヒスタミンが分泌されやすくなるため。肌が赤くなるなどの変化がなければ気にしなくていい。
長湯のしすぎがよくない理由
体の内部の温度(深層体温)が2℃以上あがると、血液が固まる「血栓」を起こしやすくなる。脳波がリラックス状態のα波になりやすいのは、1℃上昇。
ジャグジーやジェットバスの効果
ジャグジーやジェットバスによる刺激は「動水圧刺激」と呼ばれ、5分間で1時間のマッサージに相当する。身体への刺激が強くて気になる方は、足裏にジャグジーやジェットバスを受けると良い。
源泉かけ流しとは何か
浴槽に注がれた温泉を再利用しないこと。加水も加温もしないものを「100%源泉かけ流し」と呼ぶ。反対が「循環式」。浴槽に注がれた温泉を濾過してから浴槽に注ぐこと。鮮度がいい温泉は炭酸ガスがなくても、体に泡がつくことがある。
同じ湯に何度も浸かるのがいいか
特定の治癒目的がある場合は同じ湯につかるほうがいい。健康促進や予防が目的であれば、違う温泉につかるほうが気分転換になる。
湯の花(湯の華)とは何か
温泉に溶けている成分が固形化したもの。硫黄華、石灰華、ケイ華、鉄華などがある。
ぬる湯は温泉なのか?
温泉の定義として、源泉温度が25℃以下であっても、規定の成分があれば温泉と認められる。つまり水風呂に毛が生えたような「ぬる湯」も温泉となる。「温かい泉」としては違和感を覚える人もいるが、湯は温かければ良いわけではない。例えば、泉質の中でも貴重な「二酸化炭素泉」に必要な"遊離二酸化炭素"は、40℃以上になると抜けてしまう。だから、ぬる湯にする必要がある。また、山梨にある「増富ラジウム温泉」の放射能泉は、源泉温度21.5℃。これも加温してしまうと、泉質の効能が弱まってしまうので、ぬる湯のほうが温泉の効果があるのである。
温泉の効果・魅力まとめ
☆ 温熱効果
☆ 水圧効果
☆ 浮力効果
☆ 転地効果
温泉には主に4つの効果があることがお分かりいただけただろか。温泉は自然のマッサージ屋さんに行くようなもの。医学的な治療ではなく、癒しを求めていく。
温泉に行く=湯治(とうじ)と言う人がいるが、療養を目的に温泉の効能を得るには時間がかかる。湯治に行く場合は主に2つの期間が目安になる。
- 2〜3週間連続で温泉に滞在
- 週に1回の温泉入浴を3〜6ヶ月連続
これくらい長い間、滞在しないと温泉の効果は得られない。そもそも湯治というのは、気持ちよさからくる「プラシーボ効果」であり、温泉を愛する人が名付けたもの。本質的な話をすると、温泉の効果は「治療」ではなく、心身を健康にし、免疫力を上げて病を迎え打つための「予防」。ぜひ、本来の温泉の効果、魅力を理解して楽しんでほしい。
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