
伊香保温泉のシンボルが365段の石段。天正四年(1576年)に、武田勝頼が長篠の戦いの負傷兵の治療のために造らせた。

湯元から源泉を浴舎に引湯し、滝を配した浴場をつくり、温泉宿を経営したのが始まり。これが日本最初の温泉都市計画である。

石段は当初、315段だったが、平成22年(2010年)に1年中(365日)賑わう願いを込めて、365段になった。

そんな情緒深い95段目にあるのが、伊香保温泉「石段の湯」である。創業は昭和57年(1982年)。蔵造りの共同浴場で、源泉を直接引き、茶褐色の濁り湯が特徴。子宝の湯として知られる。伊香保温泉を訪れたら、「黄金の湯館」か「石段の湯」のどちらかに入浴することをお勧めする。

営業は、午前10時から午後8時まで、 休館日は第2火曜日、第4火曜日。料金は800円。内湯だけで800円は高額だなと思ったが、十分にその価値はある。

2025年6月19日に訪れたときは貸切状態。伊香保温泉は木曜定休の店が多く、観光客も少ない。

泉質は硫酸塩泉。快晴のこの日。湯面は静かに波打ち、外光を映して揺れている。
肌の色と茶褐色の湯色が重なり、輪郭が曖昧になる。飲んでみても味はない。匂いもしない。けれど、湯の力が肌に静かにしみこむのがわかる。じんわりと、しかし確かに温めてくる。騒がず、急がず、温める。そんな湯だ。

温まりの湯に浴して身体が火照ったら、夏雲が浮かぶバルコニーへ。高台にあるので、初夏の爽やかな風が心地よく冷やしてくれる。伊香保温泉は、夏に来るのが正解だ。何かが終わるのではなく、「ほどけていく」感覚を味わえる。

目の前に谷川岳や武尊山。先輩と登った雪山の憶い出が蘇る。上州の名山から吹く風と対話。
デッキチェアに腰かけ眼を瞑ると、フランスの画家ベルト・モリゾが描いた《バルコニー》の柔らかさを思い出す。
黄金の湯館をグスタフ・クリムトの《抱擁》の湯と呼ぶなら、ここはベルト・モリゾの湯だ。あの絵のように、誰の視線も感じないまま、時間が穏やかに止まっている。

風呂上がりは、御蔭(みかげ)珈琲で、ほっこり。「急に暑くなったから、コーヒーがよく売れてね」と、売店のおばあちゃんも嬉しそうだった。

急ぐ旅ではあるが、この名湯に少しでも長居したい。18時まで使える2階の休憩処で、30分ほど昼寝を楽しんだ。扇風機をつけ、うとうと夢の世界へ。ほんのひととき、時の歩みを遅くすることができた。
伊香保温泉 石段の湯の温泉分析書
- 泉質:カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉(中性・低張性・温泉)
- 泉温:42℃
- 浴槽:石
- 種類:内湯、露天
- pH値:6.4
- 湧出量:4627L/分
- 湯の色:茶褐色
- 成分総計:1280mg
浴場に温泉分析書がなかったが、伊香保温泉は、「硫酸塩泉」に分類される。主成分となる硫酸イオンには、殺菌作用や抗炎症効果があり、筋肉痛や関節の炎症をやわらげ、体の芯からじんわりと温めてくれる。加温はするが、加水や循環ろ過装置は使わない。
鉄イオンは8.28mgと豊富で、一般に5mgを超えると湯は茶色く色づき始め、含有量が増えるにつれ、黄緑から黄色、そして伊香保特有の茶褐色へと深みを増していく。「黄金の湯」の名にふさわしい色合い。
さらに、肌にうるおいを与える「メタけい酸」も177mgと高濃度。100mgを超えると「美人の湯」と称される目安となるため、伊香保の湯は美肌効果も十分に期待できる。
加えて、「メタほう酸」も7.7mgと基準値の5mgを上回っており、目に異物が入った際の中和作用など、目や皮膚にやさしい特性を備えている。
伊香保温泉は、殺菌・保温・美肌の三拍子がそろった、体も心もやさしく包み込む茶褐の名湯である。
伊香保温泉 石段の湯の概要

- 開館時間:10:00
- 閉館時間:20:00
- 定休日:第2火曜、第4火曜
- 開業:昭和57年(1982年)
- 利用:日帰り○、宿泊×
- 場所: 群馬県渋川市伊香保町伊香保36
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