「熱海」という名前を初めて知ったのは小学生。週刊少年ジャンプの『こち亀』だった。30年以上前。当時の熱海は大人の香り漂う歓楽街。湯よりも芸者や風俗が話題の中心。そんなこと小学生が知るはずもない。『こち亀』はオトナの世界を垣間見せてくれる入り口だった。今の熱海はすっかり観光地として生まれ変わり、女性やカップルでにぎわう温泉リゾート。
「熱海」という地名は、海中から湧き出した温泉が海水を熱湯に変えたことに由来している。かつては「あつうみが崎」と呼ばれ、それだけ温泉と深いつながりがあった。
江戸時代には「熱海七湯(あたみななゆ)」と呼ばれる7つの源泉があり、明治以降のボーリング技術の進歩によって、現在では410本もの源泉がある。その代わり、かつての源泉は失われた。
熱海駅前には「家康の湯」という足湯がある。この熱海の湯を愛したのが徳川家康。関ケ原の戦いの前に熱海で湯に浸かり、それ以外にも家族と7日間も逗留した記録が残っている。家康が入った源泉には、もう入浴できない。
熱海温泉は日本でも有数の観光地なので、日帰り入浴の温泉施設が多い。2025年4月9日、水曜日。この春いちばんの快晴に恵まれた日、「湯宿みかんの木」を訪れた。
江戸時代から続くこの温泉宿は、かつて敷地でみかんを栽培していたことからその名が付けられた。
相模灘までは徒歩わずか1分。歴史ある古源泉をそのまま掛け流す、数少ない貴重な宿のひとつ。
入浴受付が始まる13時半ぴったりに到着すると、若い男性スタッフがにこやかに迎えてくれた。
受付には、大学生くらいの女性。アルバイトか新入社員か。後ろで見守る男性スタッフの姿が頼もしく、どこか微笑ましい。
館内は明るく清潔で、宿泊したくなる風情。
浴場は日によって男女が入れ替わるスタイルで、訪れた日は檜の露天風呂が男湯だった。
目に入ったのは「リファ」のドライヤー。湯宿で初めて見た。約4万円もし、その風力と乾きの良さに感動する。細部への気遣いが伝わってくる。
嬉しいことに、まだ湯客はおらず、独泉状態。静けさに包まれて、自分だけの湯を楽しむ贅沢な時間。
石風呂の内湯の他に、足つぼ湯がセットになった岩風呂がある。
主役は源泉かけ流しの檜露天風呂。ペロッと飲泉すると塩の味がする。やはり海の湯。最初は日焼けした腕に少しピリッと刺激があるが、全体的にやさしい。地名の由来の通り、あたたかい海に入っている気分。戦に疲弊した家康が愛したのも頷ける。
この湯は、朝湯と夜湯が最も気持ちいはず。次回は宿泊して、じっくり熱海の湯と語らいたい。
「湯宿みかんの木」の温泉分析書
- 泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉(含塩土類-食塩泉)低張性・弱アルカリ性・高温泉
- 泉温:71.2℃
- 浴槽:石、岩、檜
- 種類:内湯、露天
- pH値:7.85
- 湧出量:不明
- 湯の色:無色透明
- 成分総計:6194mg
熱海温泉「湯宿みかんの木」の泉質は、塩化物泉。源泉温度が71.2℃と高いので加水している。
最も多いのはナトリウムで1370mg。そこまで塩は強くない(強塩は5500mgから)。保湿成分の「メタけい酸」が174mgと豊富で100mg以上の「美人の湯」の基準を満たしている。突出したクセ(特徴)があるわけではなく、肌にやさしい湯の代表格。
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