湯遊白書〜そこに温泉があるから

ここは天国かい?いや、温泉だよ。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。日本、アジア、世界の温泉を巡ります。2017年11月23日、温泉ソムリエ協会認定「温泉ソムリエ」の資格を取得。本ブログの情報は平成29年8月発行の『温泉ソムリエ テキスト』(著者・遠間和広)に基づいています。

500年の温泉宿・底倉温泉「つたや旅館」〜箱根七湯で綴る、静けさの原稿用紙

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

「箱根 彫刻の森美術館」の敷地の裏手、奥深い渓谷のなかに、箱根七湯(ななゆ)の一つ「底倉温泉」が広がる。目の前を蛇骨川(じゃこつがわ)が流れ、戦国時代に豊臣秀吉が小田原攻めのときに温泉を掘らせた。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

小田原城征伐の間、箱根底倉の地に石風呂をつくり、将兵たちの疲れと傷を癒したのが始まり。当時は掘削機はなく、少し掘っただけでも温泉が湧いた。500年以上も続く、日本屈指の名湯である。

「つたや旅館」の歴史

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

江戸から令和へ。500年以上も湧き続け、底倉温泉の源泉掛け流しをもつ湯宿が「つたや旅館」である。箱根登山鉄道「宮ノ下駅」から歩いて15分。目の前で「太閤の滝」が轟音をあげる。

「つたや旅館」は江戸時代に、蔦屋平左衛門が創業。近くには太閣石風呂の跡、共同浴場の「太閤の湯」、いくつもの旅館、ゲストハウスが並ぶ。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

開業年は不明。すでに1842年(天保13年)の「箱根七湯図」には底倉に4軒の湯宿が描かれ、現在も残っているのは蔦屋(つたや)だけ。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

2025年の現在、10代目が受け継いでいる「つたや旅館」は、旅館再生のリノベーションを行い、主に外国人向けの「温泉ゲストハウス」になっている。日帰り入浴は行っておらず、宿泊者だけが湯客となれる。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

箱根登山鉄道の「宮ノ下駅」から徒歩12分。大きな旅行カバンを抱えた外国人がグループで泊まり、この名湯に癒されていく。

「つたや旅館」の温泉

露天風呂

「つたや旅館」の温泉 露天風呂

「つたや旅館」の自慢が、湯船まで全面に伊豆青石(いずあおいし)を使用した露天風呂。伊豆青石は石材の中でも柔らかな材質で保温性に優れ、肌触りがよく、濡れると青味を増してマリンブルーに輝く。

「つたや旅館」の温泉 露天風呂

ちょこんと置かれた蚊取り線香が夏を呼ぶ。米津玄師『パプリカ』が聴こえてくる。露天風呂は洗い場がなく、純粋に入浴だけ。この空間づくりが見事である。

「つたや旅館」の温泉 露天風呂

底倉温泉の「ナトリウム-塩化物温泉」はやさしく、無味無臭。漂う蚊取り線香の薫りがまた風流。。湯、伊豆青石、自然。すべてがやさしい。伊豆も英気を養う日本屈指の別天地だが、やはり箱根も別格。だから、国内外の多くの人を引き寄せる。

湯につかっていると、時間は動いているのに、歴史が止まっているように感じる。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

耳をすませば、太閤の滝の轟々とした音が聞こえてくる。麗しい緑に囲まれている場所だからこそ、その空気も湯に染み込む。空気も泉質なのだ。

伊豆青石の地面、湯、空気の三所(みどころ)攻め。秀吉が小田原城を囲んで北条氏を逃げられなくしたように、つたや旅館の湯も、歴史が全身を包み込む。

湯河原温泉でも経験したが、温泉は「湯と空気の掛け算」である。美術館と同じ。空間もアート。昼間や夕暮れが最高だが、夜の澄んだ空気も、また味わい深い。

内風呂

小浴場「やちよの湯」

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

つたや旅館は、内湯に洗い場を設け、露天風呂と役割を区別している。こちらも、床から湯船まで、伊豆青石(いずあおいし)を使用。国内では希少な石。

小浴場「やちよの湯」は、蛇骨川に架かる八千代橋から名付けられた。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

窓から淡く麗しい緑の光が差し込む。すぐに効くわけではないのに、肩こりや腰痛が湯に溶けていく。

大浴場「そこくらの湯」

500年の温泉宿・底倉温泉「つたや旅館」〜箱根七湯で綴る、静けさの原稿用紙

大浴場の「そこくらの湯」は、露天風呂にいるような開放感で、朝風呂に最高。

「そこくらの湯」

つたや旅館をイメージしたオリジナルの浮世絵壁画もある。バスルームチェアの威力は凄まじく、朝風呂のときは、あまりの気持ちよさに二度寝してしまう。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

アメニティも行き届き、天然由来の身体にやさしい洗剤を使用。フェイスウォッシュもある。おもてなしの心も、泉質に影響する。

「つたや旅館」の温泉分析書

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

  • 泉質:ナトリウム-塩化物温泉・低張性・弱アルカリ性・高温泉
  • 泉温:56.4℃
  • 浴槽:伊豆青石
  • 種類:内湯、露天
  • pH値:7.8
  • 湧出量:不明
  • 湯の色:無色透明
  • 成分総計:1,309mg

底倉温泉「つたや旅館」の湯に大きな特徴はない。泉質の「ナトリウム-塩化物温泉」は、海水の成分に似た塩分を含む温泉だが、もともと弱塩であり、さらに加水もしているので無味。

あえて特筆するなら、100mg以上で「美人の湯」と呼ばれるメタけい酸が、113mg含まれていること。

源泉かけ流しだが、加水、加温、消毒、ろ過装置の循環も行っている。だが、底倉温泉に関しては、今の湯が絶妙であり、黄金バランスと言える。

「つたや旅館」の宿泊

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」
箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

「つたや旅館」は、家族やカップルで泊まる個室だけでなく、一人旅や値段重視のプランも用意。2段ベッドの素泊まり7200円コースは名湯に浸かれて格安。ここは荷物置き場と寝る場所。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

日中は地下2階のラウンジへ。憩いの場。スタッフも、ほとんど外国の方。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

料理道具も一式そろっているが、歩いて4分の美味しいイタリアン『La Bazza(ラバッツア』がおすすめ。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

ラウンジのコンセプトは、外国の方をもてなす“日本”を感じるレトロなデザイン。日本の古具をリメイクした和柄デザインや、日本の色(えんじ色や山吹色)を基調にし、茶屋をイメージしている。

500年の温泉宿・底倉温泉「つたや旅館」〜箱根七湯で綴る、静けさの原稿用紙

昭和のオモチャも沢山あり、古き良き日本の文化を愉しめる空間になっている。

箱根七湯 底倉温泉「つたや旅館」

窓際には、蛇骨川の清流を前に作業スペースもある。太閤の滝や蛇骨川の清流を聞きながら執筆できるのは、ありがたい。

500年の温泉宿・底倉温泉「つたや旅館」〜箱根七湯で綴る、静けさの原稿用紙

東京に帰ってから温泉レポを書くのではなく、現地で書きたい。執筆がひと段落すれば、また名湯の癒しが待っているのだ。

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